生活保護引下げを違法と判断する歴史的な最高裁判決を勝ち取りました
生活保護引下げを違法と判断する歴史的な最高裁判決を勝ち取りました
2025年6月27日
弁護士 喜 田 崇 之
厚生労働省は、平成25年から三回にわけて生活保護費のうち生活扶助基準を引き下げる処分を下しました。①デフレ調整(物価下落を理由とする減額)、②ゆがみ調整(低所得者世帯の消費実態との乖離を理由とする減額)を根拠として、総額670億円の引下げとなりました。
これに対し、全国29地域で、1000名以上の方が原告となり、全国で300名以上の弁護士によって裁判で争われました。最高裁判決が下されるまでに、高裁レベルで原告側勝訴事例が7件、国側勝訴事例が5件あり、このうち大阪訴訟と愛知訴訟が最高裁で審理され、2025年6月27日、判決が下されました。
【判決の概要】
最高裁第三小法廷(宇賀克也裁判長)は、本件処分を違法としました。
本判決は、いわゆる老齢加算訴訟最高裁判決(平成24年2月28日)が示した判断過程審査論に基づき、引下げの結論に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査しました。
そして、多数意見は、①デフレ調整につき、従来の保護費の決め方とは異なり、物価変動率だけを指標に用いたことに適切な根拠があるか否かについて十分な説明がなされておらず、また、有識者会議による審議や検討も経ていないこと等を理由として、専門的知見との整合性を欠き、厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があり違法と判断しました。
他方で、②ゆがみ調整については、増減幅を2分の1にするといういわゆる「2分の1処理」問題の違法性が争われたのですが、多数意見は不合理とは言えないとして違法とせず、また、国の国家賠償責任も否定しました。
【宇賀裁判長の反対意見】
注目すべきは、宇賀裁判長が、以下の反対意見を述べました。
宇賀反対意見は、②ゆがみ調整の2分の1処理について、基準部会が2分の1処理をすることについて全く検討してこなかったこと、国は2分の1処理をしたことを全く説明しておらず、むしろその後この事実を隠し続け、弁護団の行政文書開示請求を受けて裁判の中で初めてこのことが明るみになった経緯を丁寧に述べ、「多くの生活保護受給者に重大な影響を与える2分の1処理の必要性と根拠については、行政の説明責任があるはずであるにもかかわらず、なぜ、それを基準部会にも国民にも隠匿する必要があったのかについて、説得力ある説明はなされていない」と痛烈に国の態度を批判し、2分の1処理についても判断過程に過誤があり、違法と解すべきとしました。
なお、2分の1処理の問題は、林補足意見も「2分の1処理がされたことが一般国民に知らされていなかったという問題もある。」「今後は、被保護者のみならず、国民一般の理解も得られるよう、丁寧な手続きによる検討が進められ、その結果について意を尽くした説明がされることを期待したい。」と述べており、多数意見も、2分の1処理の判断のプロセスに大きな問題があったという指摘をしています。
【判決の意義】
この判決は、最高裁で生活保護本体の引下げが違法と認定された初めての判決であり、日本の憲法裁判の歴史、社会保障の裁判の歴史に残る判決になることは間違いありません。
【今後の課題】
この判決を受けて、国がどのような被害救済を図っていくのかはこれからの課題です。
平成25年からの保護費減額の処分が違法と判断された以上、全ての生活保護受給者の保護費が遡及して適切に支給されなければならないことになります。
また、そもそもどうしてこのような問題が発生してしまったのか、今後同じような問題(政治的な忖度・介入)が起きないようにするためにどうすればよいのか、生活保護基準の設定方法の枠組み等を検証していく必要性もあります。この点、デフレ調整の際に意図的というべき統計偽装・物価偽装(物価下落の水増し)がなされていたという問題があり、最高裁はより手前の問題で違法と判断したため直接言及がなかったのですが、こういった問題を引き起こした原因も追究されなければなりません。
また、生活保護基準は、最低賃金、国保料の減免基準、公営住宅の減免基準等、多くの国民に関わる様々な制度の基準と連動しており、間接的な被害もたくさん発生してきたことになり、そういった問題も一つ一つ検証していく必要があります。
提訴してから既に10年以上が経過しており、提訴時に1000名以上いた原告団のうち、すでに232名が亡くなっています。一刻も早く被害回復措置が実現されなければなりません。(関西合同法律事務所では、清水亮宏弁護士も弁護団として活動してきました。)
以上