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八尾市立高安保育所廃止処分取消訴訟

2008-10-27

八尾市立高安保育所廃止処分取消訴訟
弁護士 河村学
1 事案の概要
本件は、八尾市立高安保育所の廃止条例が可決(2007年6月26日)されたことを受けて、これを廃止処分として、その取消を求めたものである。
八尾市は、待機児童解消と財政負担軽減を理由に、2005年度から、13箇所ある公立保育所のうち、5箇所の公立保育所を廃止し、これを民間園に引き継がせる計画を立てた。その一つとして選任されたのが高安保育所であった。
高安保育所は、昭和43年に設立され、八尾市の東側にある唯一の公立保育所として、地域住民に愛され、地域の保育・子育てセンターとしての役割を担ってきた。そこで、この廃止計画に対しては、父母、地域住民から反対運動が起き、条例を提出しない旨の要望署名には、入所保育児童世帯の90%、公立保育所廃止の影響を直接受ける児童の世帯の100%が署名し八尾市に提出された。また、同保育所廃止撤回を求める要望署名は8000筆を超えた。
こうした父母・地域住民の要望を無視し、八尾市自身、「今のところ我々の提案について(高安保育所の保護者に)理解いただいているとは思っていない」と発言する状況であったにもかかわらず、廃止条例可決が強行されたのである。
なお、八尾市は、その後、土地の無償貸与等を受ける法人を募集・選定した。現在は、選定された民間園が、保育園舎の建築にかかろうとしているところであり、2009年4月からの開園を目指している。

2 裁判の経過
廃止条例の取消訴訟は、2007年11月15日に提起された(原告は4世帯12名)。原告の主張は、①保護者の保育所選択権の侵害・児童の当該保育所で保育を受ける権利の侵害、②保育の実施解除に伴う意見聴取義務違反、③行政裁量の逸脱の3点である。③については、具体的には、A廃止の合理的理由がないこと、B保護者・児童の被る不利益が大きいこと(a継続性の切断、b保育の質の悪化(保育体制の問題、保育士の経験年数の差、保育内容の劣悪化、障害児保育の不十分、私立保育園の私的契約児問題、入所定員が増えることの問題)、c経済的負担の増大)、C保護者の納得を得ないまま廃止が決定されていることなどを挙げて、裁量逸脱があると主張している。
これに対して、被告は、保育の質は低下しない、保護者には十分に説明したということを抽象的に主張するにとどめ、その一方で、財政負担軽減のメリットを強調する立場をとっている(まるで財政効果があれば市の施策はすべて合理性が認められるべきであると主張するかのごときである)。なお、この手の訴訟では、通常、条例制定が抗告訴訟の対象になるのかという入口の問題が争われるが、本件では、八尾市はこの点を全く問題にしていない(この論点はこれまでの裁判例で既に克服済みの論点といえる)。
現在、原告は、保育の質の具体的内容を例えば、排泄・食事・外遊びなどの保育実践の中から具体的に抽出し、民間園との対比やその差異が生じる理由についての具体的な検証作業を行うとともに、学者の協力も得て、保育所選択権の中身や行政裁量をめぐる過去の裁判例の検討、財政問題の検討などを行っているところである。

3 保育所廃止処分をめぐる裁判の状況
保育所廃止処分をめぐる裁判の状況としては、しばらく請求を全面的に棄却する判決・決定が続いていたが、その後、大東市の事件で、原告らに対する配慮義務違反を理由に一世帯あたり33万円の損害賠償が認められ(大阪高裁平成18年4月20日判決。最高裁平成19年11月15日判決)、横浜市の事件で、廃止処分について行政裁量逸脱の違法を認めたものの事情判決とし、一世帯当たり10万円の損害賠償が認めた判決が出された(横浜地裁平成18年5月22日判決)。さらに、引き継ぎ期間が5日しかなかった神戸の例では、仮の差止を認める決定も生まれている(神戸地裁平成19年2月27日決定)。
ただ、いずれの判断も、手続的な違法・不十分を実質的な理由にしており、廃止処分の内容自体が違法とするものではなかった。自治体の側も、これらの判決を受けて、手続的には、例えば、引き継ぎ期間を長くとる、説明会を多数回開催する、などの手法をとるようになっている。そこで今後は、保育内容自体の問題性(質の問題と継続性の問題)と、手続的な問題についてもその内実が問われることになる。
最近、千葉・八千代市の事件で、原告の訴えが退けられる判決が出されている(千葉地裁平成20年7月25日判決)。また、横浜事件も東京高裁で結審を迎え、今後、判決が出される見通しである。
いずれにしても、保育所廃止処分をめぐる裁判は、地域的及び社会的な運動と連携して、自治体と国の施策自体を変えていくことを目標にした闘いの一貫として行われるものでなければならないと思う。

カテゴリー: くらし, 行政 

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