法律事務所創設のころ 弁護士東中光雄(再記)
法律事務所創設のころと私 弁護士 東中光雄
(関西合同法律事務所創立70周年を記念して、再記・補注した記事です。 弁護士 井上直行)
1949年10月、私(東中光雄 1924年-2014年)は司法研修所での前期修習(1948年合格 司法修習3期)を終えて実務修習地大阪へやってきました。
最初に配属された刑事裁判の安田裁判官室に赴いて、「東中です。」 と挨拶すると、「出身地は?」と聞き返された。変だなと思いながら、「奈良」と答えて、ふと裁判官の机の上を見ると、「被告人東中次夫」の記録が置かれていました。私はギョッとしたのを今も覚えています。(東中次夫君は私の幼なじみ、従兄弟の子。当時は大阪商大高商部(のちの大阪市立大学)の学生で、いわゆる「敦賀壁新聞事件」=(米占領軍の大阪における最初の言論弾圧事件の被告人の一人だったのである。)本人は一審有罪。控訴審で講和条約免訴。)
私が生の裁判に接することとなった最初の事件が「親族への言論弾圧事件」であって、いわば「除斥」となったが、何とも複雑な心境になったものです。
1950年6月25日朝鮮戦争が勃発。GHQ連合国軍最高司令官総司令部(ダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官)から6月6日にマッカーサー書簡を受けた吉田茂内閣は閣議で日本共産党中央委員24人及び機関紙「アカハタ」幹部17人の公職追放を決定し、アカハタを停刊処分にした。6月2日以降東京都内で、16日以降は全国で「幻の覚書」(GHQウィロビー少将の覚書に基づくデモ・集会の禁止令)なるものを口実に、集会のデモを全面的に禁止するとした。大阪でも警察の実力行使で一切の集会・デモが踏みつぶされた。
7月に入ると、マッカーサー司令官は吉田茂首相に対し、「日本警察力の増強に関する書簡」を提示し、警察予備隊の創設に乗り出し、日本再軍備への道を公然と進み始めた。そして、GHQの援助の下に、反共のナショナルセンターとして日本労働組合総評議会(総評)が結成大会を開き、GHQは新聞協会代表にレッドパージを勧告し、言論機関から「共産党員とその同調者」を追放するという暴挙に出た。8月30日、GHQがナショナルセンターであった全国労働組合連絡協議会(全労連)の解散を指令し、9月1日には政府が公務員のレッドパージの方針を決定。かくて全国的にレッドパージの嵐が吹き荒れることになった。
これら一連の米日支配権力の公然とした反動的攻勢は平和と民主主義で基本的人権尊重を基本原理とするポツダム宣言や日本国憲法を真正面から蹂躙するものであることは、法律家なら何人も否定できないところです。司法修習生の私は、米軍の思想差別(レッドパージ)や言論弾圧に協力し加担する検察官や裁判官の行動に侮蔑と憤りの念を持たざるを得なくなったのです。
1951年4月、私は弁護士となり、当時日本共産党衆議院議員(旧大阪4区選出)であった加藤充弁護士の法律事務所の留守番弁護士として活動を開始しました。1951年から52年にかけての弁護活動の特徴は、言論弾圧との戦いであった。GHQ占領軍の軍事裁判所での戦いは大変でした。しかし、軍国主義の抵抗と民主主義の復活、基本的人権尊重を日本国に国際的に義務づけたポツダム宣言を武器として、意気高く米軍の弾圧とも戦うことができました。
1952年中頃から大衆運動に対する大量弾圧事件が集中的に起こりました。全国的には東大ポポロ事件、血のメーデー事件や大須騒擾事件、大阪では5・30集会弾圧事件、6・25吹田騒擾事件・枚方事件、生野事件、阿倍野事件等、数百人に達する被逮捕者が続出し、府下一円に分散留置されました。公判は、吹田事件週3回、枚方事件週1回、生野・阿倍野事件は各隔週1回。いわゆる公安事件の法廷闘争が人手不足でてんてこ舞いしながら連日進められたのです。
1954年3月、私は大阪市中央区上本町二丁目の加藤充法律事務所から独立して、大阪市北区兎我野町の東神ビル2階に移り、「労働法律旬報社・関西支社」と共同の東中法律事務所を開設しました。
この年大阪総評は、中小企業労連や印刷、ハイタク労働者らの戦いが大きく前進し、国労大阪が遵法闘争・公労法規制を破って労議行為に立ち上がり証券取引所に労働組合ができて戦いに立ち上がった。労働運動の大昂揚です。
こうした中で東中法律事務所は、公安事件に断固取り組むとともに、労働者と労働組合の権利を守る戦い、更に農民組合や借地借家組合・民主団体と共同して戦いを進め、1956年には民主法律協会の結成に尽力し、その事務局を東中法律事務所に置くこととなったのです。(東中法律事務所は、1974年に関西合同法律事務所に改名しました)
この戦いを振り返って、私はいかなる弾圧にも屈せず、あらゆる弾圧と断固戦い、国民の権利と生活を擁護し、国の独立、平和、民主主義を守るための拠点となる事務所として頑張りたいと思うものです。