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信濃運輸労災事件

2005-02-26

信濃運輸労災事件 弁護士 河村 学

1 事案の概要
 被災者は、昭和60年頃から、信濃運輸株式会社に、トラック運転手として勤務していた。しかし、平成12年5月29日、鳥取から東京への運送中、右脳高血圧性内包出欠及び脳空穿破を発症して意識障害に陥り、一命を取り留めたものの右大脳に機能障害が残った(第1発症)。また、その後、平成14年3月16日には左脳の脳内出血を発症し、重度の意識障害が生じた(第2発症)(平成16年1月21日症状固定)。
 被災者の労働実態としては次のようなものであった。
① 被災者の業務は東京と鳥取を往復する往復する長距離運転であった。具体的には、東京で、午後6時頃から翌午前1時頃までトラックの積み込み作業を行い、その後、東京を出発して約8時間トラックを運転し、午前9時40分頃から、鳥取で積み卸しを午前11時頃まで行っていた。また、鳥取では、午後4時頃から午後7時頃まで積み込み作業を行い、その後、鳥取を出発し、午前4時頃から東京と千葉で荷下ろしをして午前9時頃に仕事を終わるというサイクルであった。
② 被災者は、このサイクルで、月12~13往復していた。これを元に労働時間を計算すると、月13往復とした場合、月337時間労働というとてつもない長時間労働を行っていたことになる。このような業務を約7年間にわたって継続して行った結果、生じたのが本件の第1発症であった。
③ 第1発症以降は、約5ヶ月弱入院した後通院治療を継続し、平成13年6月から福祉施設で軽作業に従事していたところ第2発症が生じた。
④ なお、被災者に同居の家族はなく、東京と鳥取に居所を持って両地で生活していた。また、被災者には高血圧の持病があったようである。

2 弁護団の取り組み
 第2発症後の被災者の兄が相談に来てこの事件を取り組むことになった。被災者は意識障害が生じているので、まず、兄に被災者の後見人となってもらう手続を行い、その審判を受けた。
 その後、東京の本社に証拠保全をかけた。ただ、保全の半年前に、被災者の業務部門が分社化しており、その事業所移転の際に、保存期間の経過した書類は廃棄処分されてしまっていた。その結果、給料明細表はその写しの提出を受けたが、その余の労働実態を証する書類については、ほとんど手に入らなかった(会社にはタイムカードもなかった)。
 そこで、弁護団では、支払明細上記載の「高速代」の金額から東京・鳥取の往復回数を割り出すとともに、かつての同僚(東京・鳥取を被災者とは反対に往復していた)の聞き取りを行い、作業実態・作業時間についての詳細な陳述書を作成した。
 また、被災者が入・通院した病院への聞き取りや、第1発症後就労した福祉施設への聞き取り等を行い、第1発症と第2発症との因果関係の立証準備の活動を行った。
 さらに、これらに加えて弁護団で調査した自動車運転者についての労働省告示や、医学書籍なども参考に意見書にまとめて監督署に提出した。

3 江戸川労働基準監督署長の認定
① 本件労災申請に対して、監督署長は、労災であることを認め、障害等級を9級とした。
② まず、本件では持ち込みトラックという形式をとっている点で被災者の労働者性が問題となりうるが、本件ではこの点は問題視されなかった。これは会社が被災者にトラックを売り、その代金を会社が売上から差し引くというもので、全く形式的な取扱に過ぎなかったこと、また、会社の被災者に対する支払明細には「給与」として支給がなされており、また、社会保険や雇用保険にも加入していたことなどの事実から労働者性が認められたものであると思われる。
③ また、認定の内容としては、第1発症を労災事故とし、第2発症との因果関係は否定した。
 その理由は、第1発症については、被災者自身に高血圧の持病はあるものの、長時間労働が行われていたことは明らかであり、その負荷が発症に起因すると認められる。第2発症については、右脳の障害が原因で左脳の機能を低下させその障害を引き起こすという因果関係は医学的知見から認められない。左脳の障害は高血圧の持病に起因するものと考えられるというものであった。
④ さらに、認定等級については、第1発症後に身体障害者等級6級の認定を受けている点を参考に、9級の認定にしたとのことであった。

4 若干のコメント
 本件では、持病の高血圧ないし基礎疾病としての自然的憎悪による高血圧と労働負荷との関係をどう見るか、第1発症と第2発症との因果関係をどうみるかが最大の争点であった。
 この点、認定では第1発症を労働負荷によるものと判断したのだが、この判断には、異常な過重労働を7年間にもわたって継続してきたという事実が大きく影響していると思われる。すなわち以前から高血圧症があったとしても、それ自体が過重労働の結果であって、労働と離れた体質やその他の要因による高血圧症は存在しないという判断である。
 ただ、そのように考えれば、第2発症を過重労働と因果関係なしと捉えるのが妥当だったかについては疑問が残る。確かに、第1発症から第2発症までは1年10ヶ月の期間があり、その間に軽作業にも従事しているという事実があるが、他に何らの発症要因は存在しないのである。とすれば、第2発症は、たまたま発症が遅れたに過ぎないのであって、過重労働との「距離」に目を奪われて因果関係なしとするのは妥当でない。問題とされるべきは、第1発症と第2発症との因果関係ではなく、過重労働と第2発症との因果関係である。

カテゴリー: 労災 

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