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イラク自衛隊派兵違憲訴訟と現在

2016-10-13

自衛隊派兵は憲法違反
弁護士 上 山  勤
2016年10月

1、 2004年4月30日、大阪地方裁判所に対して、イラクへの自衛隊派兵は憲法に違反する違法な行為だとして、「派兵を止めろ」という請求の訴訟が起こされた。違法な政府の行為で精神的にも苦痛を被ったとして「慰謝料を支払え」という請求も一緒になされている。原告は悲惨な戦争体験から二度と戦争はいやだという人たち19名と、何度もイラクに足を運び、今ある戦争の悲惨を告発し続けている1名の計20名。すでに札幌と名古屋で同種の訴訟が起こされていて全国で三番目の集団提訴であった。弁護団は関西を中心として267名が集まり、皆が手弁当で動いている。私達は社会に広く裁判の存在と意義を訴えたくて提訴当日、記者会見をした。
記者会見をセットするために前もって司法記者クラブに足を運び趣旨を説明しておいた。自衛隊をイラクに派兵するのは憲法に違反するのだと。ところが、同席をしたNHKの記者は言ったのだ、『自衛隊のイラク派兵は社是ですからね』と。
2、そして、提訴。記者会見。多くのマスコミが集まりごった返す中で原告1人1人がどんな思いで裁判を起こしたのかを語り始めた。ある人は、自分が女学生だった頃経験をした大阪空襲の惨状を、ある人は終戦を迎えて瓦解した満州開拓団から日本に向けて歩きつめる苦しく恐ろしい逃避行を語った。ある人は日本に帰れず異国の地で日本人・中国人として暮さざるを得なかったこと、ある人は激戦地沖縄でカタツムリを食べながら銃火と日本軍の両方から逃げまどった様を語った。原爆による被曝のおぞましさも語られた。
話が始まると会場は静まりかえって咳払いもはばかられる状態になった。原告達の訴えの持つ圧倒的な重みがその場を支配していたと思う。かのNHKの若い記者も一言も発するところは無かった。平和を求める原告達の気持ちを揶揄したり、茶化したりできる人はいないであろう。その気持ち、王道なり、である。

(写真は、サマーワでのデモ隊。横断幕には『我々は強く日本軍の即時撤退を要求する。イラクの国土に占領軍の居場所は無い。』と書かれている。)
3、裁判はこれまで3回開かれた。国側は防衛庁の職員も含めて出席しているが原告らの請求は具体的な請求権に基づかないからという理由で、訴えの理由の有無に関わらず不適法だ、として却下を求めている。イラク特別措置法では「非戦闘地域」に限り派遣を認めているが小泉首相はイラクは戦闘地域ではない!という。宿営地に迫撃砲弾が打ち込まれても、オランダ軍がパトロール中に銃撃されても非戦闘地域だと強弁し、理由を追及されると「自衛隊がいるから非戦闘地域なのだ」という始末。(こんな児戯にも似た理屈が国会で堂々とまかり通り、問題にされないのが日本の社会であれば、青年やこども達に倫理や論理を諭す資格はない。)裁判の中で、原告らはイラクは全土が戦闘状態であり、この地域に武装した自衛隊を送り込むことは憲法は勿論のこと、イラク特措法にも違反すると主張している。国側は、イラクがどんな状態なのかについての認識の表明すら拒み、一切の実質的な審理を拒否しようとしている。
4、大阪では、7月26日に400名が第2次提訴、そして、12月7日には再び別の400名が第3次提訴を行った。現在は第4次提訴が準備されつつある。全国的にも山梨・静岡・仙台・栃木と提訴が続き、いまや5000の原告が全国で政府の行為を違法と咎める訴訟に立ち上がっている。戦後憲法違反の訴訟はいろいろあったがこれだけの規模とスケールで争われているのは初めてである。それはいま歴史がそのような場面を迎えていることを象徴している。平和憲法が最大の危機を迎えているといえるし、60年続いた平和の枠組みを21世紀の確かな枠組みとしてさらに強固にする好機ともいえる。
原告・弁護団の思いは同じである。「イラクの無辜の人たち、貧しい人たちを傷つけてはいけない、自衛隊を含む私達はそんな行為に参加したくない。再び人を殴る側に立ちたくは無い。」

(2016年の追記)
⇒ ご承知のとおり、名古屋高等裁判所は、判決の暴論であったが、自衛隊のイラクへの派兵は違憲である、と断じた。続いて、岡山地方裁判所も同旨の判決を出した。しかし、2015年9月、安倍政権は、自国が攻撃されていなくても武力の行使を可能とする集団的自衛権の行使を可能とする、安全保障関連法を強行採決させた。違憲の法律と言わざるを得ない。当時、小泉政権はブッシュ大統領がイラク攻撃を始めた3時間後に、これを支持する声明を発表した。大量破壊兵器の有無もわからないままである。(攻撃の理由として、イラクが大量破壊兵器を保有しているので、と言うのが理由となっていた。)
『米国のイラク攻撃から10年たった3月20日の朝日新聞が、当時の官房長官であった福田康夫元首相に単独インタビューを行ない、その一端をスクープ報道している。彼は言う。米国がイラク攻撃をしないで欲しいという気持ちは、小泉首相も強く持っていたと。ブッシュ大統領が最後通告の演説をしている頃、英国のブレア首相から、ブレア首相も後議会で支持表明のスピーチをしなければならないので、その前に米国と英国の立場を支持するように日本に表明して欲しいと要請して来たと。日本が反対しても米国はイラク攻撃を行なう。そうである以上、反対して日米同盟を崩してはいけないとの信念が小泉首相にはあったと。(イラクに大量破壊兵器があったかどうかについては)判断材料を得ようにも手も足も出なかったと。(日本がブッシュ演説の3時間後に世界に先駆けて支持表明したことで)窮地の米国を救い、日本の米国に対するプレゼンスを高めた。・・・・と言うのです。
日本の政府は、国民や日本国憲法ではなく、アメリカの方を向いて政治をやっている。

カテゴリー: 平和 

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