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労働契約法20条最高裁判決について

2018-08-15

労働契約法20条最高裁判決について

弁護士 河村  学

1 はじめに

最高裁は、2018年6月1日、労働契約法20条の解釈が問題となる事案(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件。以下、それぞれ「ハ事件」「長事件」)で、初めての判断を示した。
本稿では、判決内容の概略を述べるとともに、その意義と今後の課題を論ずる。

2 判決の内容

(1) 最高裁が示した労契法20条の解釈について、一般論として重要な点は次の7点である。
① 労契法20条の趣旨につき、有期雇用労働者(以下「有期社員」)は、無期雇用労働者(以下「正社員」)より、「合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ」たものであり、「職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である」とした。
② 同条違反の効力につき、同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効としたが、その場合でも労働条件が正社員と同じにはならないとした。有期社員は、本条違反を理由に賃金請求や地位確認請求をすることはできず、損害賠償請求をすることになる。
③ 同条にいう「期間の定めがあることによる相違」とは、労働条件の相違が「期間の定めの有無に関連して生じたものであること」とし、適用される就業規則の違いによって労働条件が相違する場合には、この要件を満たすとした。
④ 同条にいう「不合理と認められるもの」とは、労働条件の相違が「不合理であると評価することができるものであること」とした。
⑤ 不合理性の立証責任について、不合理であるとの評価を基礎付ける事実については20条違反を主張する側が、その評価を妨げる事実についてはこれを争う者がそれぞれ主張立証責任を負うとした。
⑥ 同条にいう「その他の事情」とは、職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定されないとし、有期社員が定年再雇用された者であることはこれに当たるとした(長事件)。
⑦ 賃金が複数の賃金項目から構成されている場合は、総額を比較することのみによるではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとした。但し、「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される」という事情も考慮されるとした。

(2) 最高裁は、個別事案について、①労働者側が挙げている正社員と比較し、②問題とされている賃金項目毎にその趣旨を判断し、③その趣旨と、職務の内容の異同との関連、変更範囲の異同との関連、その他の事情の有無及びその関連を順次検討して、不合理性を判断している。

例えば、ハ事件では、①請求している有期社員と同じ職場で同じ業務に従事する正社員とを比較し、職務内容は同じだが、正社員は転居を伴う転勤があるので変更の範囲は異なるとした。②次に、請求されている各手当毎にその趣旨を解釈し、例えば、無事故手当については、その趣旨を「優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給されるもの」とし、③各考慮事情について、職務内容は異ならないから、安全運転及び事故防止の必要性に差異は生じない、この必要性は変更の範囲が相違するという事情により異ならない、その他、不合理であるという評価を妨げるその他の事情もうかがわれないとして、相違を不合理とした。

また、住宅手当については、その趣旨を「従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるもの」とし、正社員については転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得るとして、相違を不合理でないとした。

(3) 結論として、比較対象の正社員と職務内容が同一で変更の範囲が異なるとされたハ事件では、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の相違を不合理とし、住宅手当の相違は不合理と認めなかった。

また、比較対象の正社員と職務内容及び変更の範囲は同じだが、有期社員が定年後再雇用であるという事情が「その他の事情」で考慮された長事件では、精勤手当、超勤手当を不合理とし、能率給・職務給、住宅手当・家族手当、役付手当、賞与の相違については不合理と認めなかった。

3 両判決の意義と今後の課題

最高裁は、労契法20条がいわゆる均等待遇ではなく、均衡処遇を求めたものである点を明確にしたが、均衡を欠く労働条件の相違を無効・違法とすることで正社員と有期社員との格差是正を図りうることを認めた。これは同条の制定経過等からしても当然のことであるが、雇用形態の違いによる差別是正を頑なに拒んできた裁判所を変えさせた労働者の歴史的勝利であり、また、実際にも、例えばハ事件の場合、有期社員に全部の手当が適用されると月額3万3500円以上の賃金増になるのであって、格差是正の効果は極めて大きいものである。格差と貧困是正の要求を立法課題にし、政権交替まで引き起こした運動の成果が現れたものである点、法律による労働規制がいかに重要であるかを示した点を確認する必要がある。

ただ、労契法20条は、相対規制であり、最低賃金規制や労働時間規制のような絶対規制ではない。正社員の処遇を低めることによっても格差は是正されるのであって、現に、日本郵政では、第1審判決後に、不合理とされた相違について正社員の労働条件を引き下げること、無期雇用労働者の中で差別化を図ることが行われている。最高裁の判断も現政権の政策の許容範囲という面があるのであり、このことは、均等待遇・均衡処遇を求める運動は中核的正社員以外の多くの正社員の労働条件向上と併せて行わなければならないことを示している。

最高裁の20条解釈としては、「その他の事情」を無限定にしている点など種々の問題があり、また、両事件とも職務内容が同一とされた事案であった点(長事件は変更の範囲も同じ)、長事件は定年後再雇用という事案であった点など事案の特殊性があり、他の事案にどう適用されるかも今後の課題である。
今後とも、格差と貧困是正の運動との一つの手段として、各職場での労働条件の相違を総点検する取組み、 条を活用した差別是正の取組みを大いにすすめる必要がある。

民主法律時報2018年7.8月合併号より

カテゴリー: 労働 

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