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[くらし]に関する記事

「これが生活保護だ―福祉最前線からの検証」

2007-05-12

「これが生活保護だ―福祉最前線からの検証」を読んで   弁護士 須井 康雄

 日本国憲法二五条一項は,「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と定め、これを受け、生活保護法が定められました。本書は、福祉の最前線にいる方々が生活保護の問題点を検証した書物です。
 本書でも指摘されていますが、生活保護制度には、次のような問題点があります。
 第一に、援助を必要とする方が行政窓口に生活保護の希望を伝えても、行政が様々な責任を回避するため、そもそも受理しないということが横行しています。受理とは、法的には、「他人の行為を有効な行為として受領する行為」に過ぎませんから、受理の拒否は許されません。また、申請の仕方が分からない方には、申請書を交付し説明しなければなりません。
 北九州市で二〇〇六年、四名が餓死しているのが発見されました。このうち一名は、二度、生活保護の受給を求めていましたが、親族がいることを理由に拒否され、申請すら認められませんでした。受理の拒否は、生命を危うくすることにもつながるものであり、重大な違法行為です。
 第二に、行政による制度の周知、制度利用の促進の取組が十分でないことです。
 第三に、生活保護の支給額が低すぎるということです。本書では、生活保護の支給額で生活できるかを実験したところ、実験した世帯の大半が生活できなかったという結果が紹介されています。
 第四に、生活保護は、受給者のもてる能力をすべて活用することが前提とされていますが、これをたてに、不況下で実際には働く場所が見つからない場合でも働く能力がある、あるいは、実際に扶養が期待できないのに、親族に扶養をしてもらうようにといって受給を拒否したり、自立のために必要な収入であるのに、その収入があることを理由に支給額を減額したりすることがかなり行われています。
 他にも問題点はありますが、本書では、行政に対する対抗策も例を挙げて記載されており、非常に有用です。
 本書でも紹介されていますが、生活保護の支給額が憲法の要求水準に達しているかが争われた朝日訴訟の第一審判決は、「最低限度の生活水準は決して予算の有無によって決定されるべきものではなく、むしろこれを指導支配すべきである」と指摘しました。
 「しんぶん赤旗」(二〇〇七年四月十九日付け)の推計では、株式等譲渡益に対する減税制度により、わずか7名の富裕者が200億円も減税されるとのことです。その一方で生活保護の削減が進められています。最低限度の生活水準が予算を指導支配すべき政治の実現が求められるといえましょう。

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「子どもの意見は聞く必要がない?!」続報・高槻南高校事件

2005-01-01

「子どもの意見は聞く必要がない?!」
続報・高槻南高校事件     (2005年1月1日関西合同法律事務所ニュースより)

      弁護士 河村 学

1 高槻南高校の廃校処分

高槻南高校の廃校案決定(2001年8月)とこれに対する生徒・父母・教師・地域のみなさんの運動については以前の事務所ニュースでも報告しました。
スポーツも盛んで、中退率も府下有数の少なさという素晴らしい教育実践を行ってきた高槻南を、なぜ廃校にするのか。
生徒や地域の意見を全く聞かない廃校は許されるのか。大阪府の目指す教育とはどのようなものなのかなどの疑問が噴出し、大きな廃校反対の運動がわき上がる中で、2003年3月、裁判が始まりました。

 

2 裁判で明らかになったこと

裁判の中では、府教委のすすめる府立高校の統廃合がそもそも教育基本法の精神に反するものであること、廃校対象校の選定が恣意的に行われていることが明らかにされました。
特に、なぜ高槻南を廃校にしたのかという点に関して、府教委の担当者は、高槻市内の府立高校の所在地、面積、駅からの距離、学校の特色(これ自体極めて恣意的な記述でした。)等を記載したたった2枚の紙きれだけで、高槻南に「選定」したと悪びれもなく証言しました。一度も現場をみず、一度も関係者の意見も聞かず、各学校のプロフィールを書いただけの2枚の紙切れで、高槻南高校の廃校を決定したというのです。しかも、当初対象校は高槻南でなかったのに、何らの合理的理由もなく、直前になって高槻南に変更された事実も明るみにでました。
また、関係者の意見を聞かなかった点について、府教委の担当者は、対象校案を選定する段階で意見を聞けば混乱を招くからだと証言しました。どのような府立高校の配置が望ましいのか、どの高校とどの高校を統合することが望ましいのか、どの高校にはどのような配慮が必要なのかなどなどは、現場や地域の声、とりわけ生徒・教師の声を聞かなければ判らないはずであるのに(逆に実情を知らないで当てずっぽに対象校を選定することは地域に必ず混乱を招くことになるのに)、どの高校を対象校にするかは府教委の勝手とばかりに、全く聞く耳をもたないと証言したのです。
さらに、現に在校している生徒が、新入生が入ってこないことによりクラブ活動を断念せざるを得なくなったり、教師の減少により進学にも影響が出るなど教育を受ける権利を侵害された実態が明らかにされても、大阪府は、明白な嘘までついて被害はないといい、また、クラブの廃部に至っては、生徒の意欲の問題だなどと責任をなすりつけようとさえしたのでした。
この教育について全く無知・無理解な担当者に対して、高槻南の生徒たちは、次々と法廷に立ち、意見陳述や証言を行いました。「学校は建物ではありません。その中には人間がいるのです。…対象校に足を運ばす、書類を見て決定するやり方は間違っています。教員委員の人にビデオレターを送りましたが、ビデオデッキがないとの理由で着払いで送り返されたときは、大阪の子どものために働いている教育委員はこんなむごいことをするのかと失望しました。」。「生徒たちにとっては、私たちの学校がどうなってしまうのか、とても重要なことなのに、どうして何も説明を受けることができないのでしょうか。
子どもたちにわかるように説明をするのは、大人としての最低限の義務だと思います。」などなど。生徒に何の説明もせず、「心の傷」だけを与え、高校生活で当然享受すべき「教育」を奪う今回の廃校処分。このような行為を教育者・教育行政担当者が行っていいはずはありません。

 

3 驚くべき判決「生徒の意見は聞かなくてもいい」

しかし、2004年9月10日に出された判決は、生徒たちの訴えを全面的に退けるというものでした。その判決文は59頁に及びますが、すべて大阪府の言い分をそのまま追認するだけのものであり、そこには何らの主体的な判断もありませんでした。
先ほど述べた点については、対象校の選定は前記のようなものでも不合理ではない、生徒など関係者の意見は聞かなくてもいい、子どもの権利条約があっても関係がない、生徒には少なからぬ不利益が生じているが著しい不利益はない等々と判決文に書いているだけで、生徒たちの「なぜ」「どうして」にまともに向き合う回答は一切ありませんでした。
生徒たちの目をまともに見ることも、生徒たちの意見をまともに聞くこともできず、ただただ強い者に阿り(おもねり)、行政に遜る大人たちが、教育を語り、法を司る、この現実に、強い憤りを感じました。

西淀川公害訴訟

2004-11-14

西淀川公害訴訟   ( 関西合同法律事務所 「50年のあゆみ」から )

弁護士 上山 勤

 
1978年、西淀川区に居住する住民は関西電力・住友金属・大阪ガス・旭ガラス・神戸製鋼といった関西の大手企業と国・道路公団を相手取って排気ガスの差止めと損害賠償を求めて大阪地方裁判所に対して訴訟を提起した。ちょうど私が弁護士になった年のことだが、かっては昼間でもライトをつけなければ車が走りにくいとか、洗濯物が真っ黒になってしまう、ゼンソクで次々と患者が死んでいくといった背景におされ、やむにやまれぬ思いでなされた提訴であった。住民はまるで一揆を進めるかのように企業の門前に押しかけて抗議をしていたが埒が明かなかった。事務所でも多くの弁護士が参加したが、最後まで弁護団を構成して闘ったのは峯田勝次弁護士と上山勤の二人であった。
証明は困難を極めた。金も力も無い患者会と弁護団にとって、「被告等の企業や道路からの汚悪煙が一緒になって原告らの居住地に到達し、疾病を引き起こしている」このことを証明するためには、資料の発掘、原告からの聞き取り、社会学者や科学者の協力などきわめて多彩かつ多数の人たちの助力が必要であった。
提訴から17年目の1995年3月、被告企業らは責任を認め、原告患者らに対して、整列をした上、深々と頭を下げて謝罪をし、全面的な和解が成立した。『子や孫に青い空を手渡したい』という思いで、命がけで戦ってきた患者と家族。同年の7月5日には、井垣裁判長は、最後まで和解を拒否して争ってきた国・公団に対し、道路からの排気ガスによって原告らがゼンソクなどの病気に罹患したとして、賠償を命じる判決を言い渡した。その後高裁の手続きの中で患者側と国・公団とも和解が成立し、単なる賠償だけではなく、今後に向けた汚染防止のためのアセスメントの枠組みなどが合意された。
この西淀川公害訴訟の成果は、名古屋・川崎などの他の訴訟にも引き継がれていった。 

CEDAW(女子差別撤廃委員会)の勧告 

2003-08-01

CEDAW(女子差別撤廃委員会)の勧告 ~ 2月と7月ニューヨークへ行って ~

 

弁護士 寺沢勝子

 

1 「条約に合うように世論を変え、法律を変えるのが義務でしょう」。「世論が」「社会的コンセンサスが」と言い訳をする日本政府に対して鋭い質問がされました。ニューヨークの国連本部、7月のCEDAWの審議の時のことです。私も日弁連の代表として審議の傍聴に行ってきました。

2 日本は1985年に女子差別撤廃条約を批准しましたが、4年に1回、国は条約を実施しているかどうかを国連のCEDAWに報告しなければならず、2003年7月に国連・女子差別撤廃委員会(CEDAW)で、第4回、第5回政府報告書の審議が9年ぶりに行われました。
政府報告書では日本の実際の女性のおかれている状況が書かれていないため、日弁連も含めて多くのNGOが実態を知ってほしいとレポートを提出。2003年2月には政府への質問事項を決めるCEDAWのワーキンググループの会合に、「実態はこうだから、こういう質問をしてほしい」と要請に行きました。この時には日本以外からはNGOの参加がなかったので、1時間かけて、日本の実情を話すことができました。

3 7月8日のCEDAWの審議には日本だけでNGO16団体57名が傍聴に行き、前日のCEDAW委員との会合では時間がないのでNGOが調整して各自2分づつ実情と問題点を発言しました。私はセクシュアルハラスメントの規制とドメスティックバイオレンス防止法の不十分な点を指摘しました。

4 7月8日のCEDAWの審議ではNGOが日本の実情と問題点をしっかり話していた効果がてきめんでした。
私が最も印象に残ったのは、条約を実施できていないことに対して政府はいつも、世論を言い訳に使っているのですが、「条約は女性に対する差別のある現状を変えること世論を変えることを国に義務づけている」ことをズバッと指摘されたことです。

5 審議の後、8月にCEDAWの最終コメントが出され、勧告がされました。
この勧告の特徴はこれまでに比べても、何をすべきかをはっきりと示していることです。

① 間接差別の禁止
「直接および間接差別を含む女性に対する差別の定義が国内法に取り込まれることを勧告する。」として、条約にあった差別の定義を法律できちんと規定するように勧告しています。

 日本政府は社会的コンセンサスを理由に検討中としてきましたが、コース別雇用管理制度の下での男女賃金格差、パートタイム労働者、派遣労働者の賃金の低さも差別として指摘して間接差別を禁止する立法をするよう勧告しています。

② 均等法の指針の改正
男女雇用機会均等法の指針は「雇用管理区分ごとに」と定めており、この区分が違うとどんなに差別があっても、区分が違うことを理由に均等法が適用されくなっていますが、この指針を変えるように勧告しています。

③ 配偶者暴力防止法は第1条で暴力の定義を身体的暴力に限っていますが、「様々な形態の暴力を含めることを要請する」としています。

④ 条約について、特に間接差別についての国会議員、司法関係者、法曹一般を対象とした意識啓発のためのキャンペーンを行うことを勧告しています。

⑤ 家庭責任と職業上の責任の両立を可能にする施策の強化・家庭内の仕事の男女間での平等な分担の促進

⑥ 選択議定書の批准は、司法の独立を強化し司法が女性に対する差別を理解するうえでの手助けとなるとして批准を推奨しています。

6 私たちがレポートを準備しニューヨークに出掛けた成果がしっかり勧告に現れているので、是非ともこの内容を実現していきたいと思っています。

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