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[労働]に関する記事

東大阪中河内救命救急センター事件報告(弁護士杉島幸生)

2025-03-05

東大阪中河内救命救急センター事件報告

2025.3.5 弁護士 杉島幸生

1 就労請求権って、知っていますか

労働者は、使用者から不当な解雇や配転がなされたときに正式裁判や可処分手続で解雇無効や配転命令の無効を争うことができます。では、裁判所で解雇無効、配転無効が認められたとき、その労働者は、使用者に元の職場で働かせろということができるでしょうか。これを就労請求権といいます。

2 めったに認められない就労請求権

 解雇や配転が無効となれば、労働者は当然職場への復帰を求めることになります。その労働者にしてみれば、元の職場以外に働く場所はないのですから、その反面として、使用者に元の職場で働かせろと請求できると考えるのが常識的な判断でしょう。ところが現在の裁判所は、こうした労働者の就労請求をめったに認めません。それは、裁判所が、解雇や配転が無効であっても、使用者としてはその労働者に賃金さえ支払っていれば労働契約上の義務を果たしたことなると考えているからです。この立場から裁判所は、職場で働くことに使用者が尊重すべき特別な利益がある場合でなければ、原則として労働者には就労請求権はないとしています。確かに賃金が支払われることは大切です。しかし、私たちは、なにもお金のためだけに働いているのではありません。その仕事へのやりがいや職場での人間関係の形成など賃金だけではない何かを求めて働いているはずです。現在の裁判所の考え方は、こうした「働きがい」「働く意味」に対する理解を欠いています。

3 就労請求権が認められた画期的な決定

 N医師は、東大阪市内にある中河内救命救急センターで働く救命救急外科医です。職場でリーダー的立場にあったN医師は仲間たちとともに、当時の医院長や事務局長の不正を内部告発しました。すると突然、別の病院に配転を命じられたのです。N医師は救急外科医として専門医資格を有しています。この資格を維持するためには、規定の年数内に規定の手術数を実施していなければなりません。しかし、配転先ではそれだけの手術数を確保することができず、このままではN医師が専門医資格を喪失するのは明らかでした。そこで、N医師は大阪地方裁判所に、配転先で勤務すべき義務のないことの確認と、使用者は、元の職場である中河内救命救急センターで救命・救急外科医として働くことを妨げてはならないという仮処分の申立を行いました。病院は、配転の理由はN医師のパワハラだなどと当初は言ってもいなかった様々な配転理由を持ち出しました。しかし、大阪地裁労働部は、使用者である病院の主張をすべて排斥し、病院にはN医師の専門医資格を維持するために協力する義務があり、そのためにはN医師が元の職場で救急救命外科医として働くことを妨げてはならないという決定を出しました。これは数十年ぶりに労働者の就労請求権を認める画期的なものでした。

4 違法と知りつつ就労を認めない病院

 ところが病院側は、N医師の就労請求権を認める決定が出たにもかかわらず、それを守ろうとはしませんでした。裁判所の決定をもとに、元の職場に出勤しようとしているN医師に対して、病院の入口に職員を配置して実力で立ち入りを妨害するという暴挙にでたのです。私たちは、病院の代理人弁護士に厳重な抗議をしましたが、病院側の弁護士は、違法な行為であることは分かっているが、病院があえてそうするとしているのだから止めることはできないと無責任な態度に終始しました。N医師は、毎日、病院に出勤しては、立ち入りを拒否されるという日々を過ごさなければなりませんでした。

5 病院の違法な態度を後押しする執行裁判所

 裁判所の決定がでれば病院もそれに従うだろうと考えていたN医師の期待は裏切られました。そこで、N医師は、あらためて裁判所に仮処分決定の執行を求めることとしました。もともとの決定は、中河内救命救急センターで救命・救急外科医として働くことを妨げてはならないというものでした。これを不作為(してはならない)義務命令といいます。通常、執行を担当する裁判所は、こうした不作為義務命令については、義務者に1日いくらという制裁金の支払を強制することでその実行を間接的に強制しようとします。ところが、今回、執行を担当した裁判所は、N医師からの間接強制の申立を認めませんでした。
もともとの仮処分決定の内容では、使用者である病院側が何をすれば、救急救命外科医として働かせたことになるのかが不明確であるから、裁判所としてその実行を使用者である病院に命じることはできないというのが理由です。しかし、労働者の側から使用者が何を命じるべきなのかを事細かに特定することは不能です。通常、不作為義務に対する間接強制命令では、実現すべき結果が明らかであればよいとされています。救急救命外科医の仕事は、救急車で運ばれてくる患者を手術することであって、それに使用者から事細かな指揮命令は必要ありません。そうであるにもかかわらず、それが特定できないから執行できないとする執行裁判所の態度は、せっかく就労請求権を認めた仮処分決定を「絵に描いた餅」にしてしまうものです。まったくもって不当な判断というほかはありません。

6 それでも戦いを続けるN医師

 仮処分決定で、職場復帰を実現することはできませんでしたが、N医師は職場復帰をあきらめてはいません。それは現場に残された若い医師たちに自分の技術を継承し、働きがいのある職場を残してやりたいという強い思いがあるからです。現在、N医師は、中河内救命救急センターで緊急外科医として勤務できなかった日数に応じた損害賠償の支払いを求める正式裁判を提起して戦っています。病院側は仮処分手続で裁判所から否定された理由を持ち出して抵抗しています。仮処分でだめなら、正式裁判で職場復帰を実現する。N医師のたたかいはまだ続きます。

 

フリーランス保護法が成立しました(弁護士清水亮宏)

2023-09-08

フリーランス保護法が成立しました

弁護士 清水亮宏

2023年4月、フリーランス保護法が成立しました(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です)。遅くとも2024年の秋頃までに施行される予定です。これまで、フリーランスを保護する法律が実質的に存在しませんでしたので、このような法律ができたことは歓迎すべき流れだと思います。

フリーランスは、取引をする事業者との力関係から、様々な問題を抱えていました。契約内容が不明確、報酬が支払われない、不合理な理由で契約を解除される、パワハラやセクハラを受けるなどの問題です。これらの問題について、フリーランス保護法では以下のようなルールが定められました。

■法律の内容
・業務委託時の条件明示義務
事業者がフリーランスに対して業務を委託する際に、業務委託の内容や報酬額等を書面やメール等で明示する。

・報酬の支払いに関する義務
事業者は、報酬の支払期日について、給付を受領した日から60日以内に設定し、その期日内に支払う。

・フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為
フリーランスと一定期間以上取引を行う事業者の禁止行為として、次のものを定める。(①②③⑦については、「フリーランスの責めに帰すべき理由なく」との限定があり)

①受領拒否
②報酬減額
③返品
④著しく低い報酬額を不当に定める
⑤正当な理由なく指定する物の購入等を強制
⑥自己のために経済上の利益を提供させる
⑦給付内容を変更・やり直させる

・募集情報の的確な表示
広告等によりフリーランスの募集を行う際に、虚偽の表示・誤解をさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つ。

・ハラスメント対策
特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じる。(今後具体的な内容が指針で定められる予定)

・中途解約・不更新時の義務
事業者は、契約を中途解約・不更新とする際には、原則として30日前までに予告する。フリーランスからの求めに応じて終了理由を開示する。

細かい部分は省略しておりますので、詳しくは以下の厚生労働省のHP等をご参照ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

この法律が使える場面かわからない、活用できそうだけど取引先にどのように主張すればよいかわからない、この法律で保護される「フリーランス」に該当するかがわからないなど、お悩みがございましたら、遠慮なくご相談ください。

■最後に
このような法律ができたことは基本的に歓迎すべきことであり、活用できる部分は活用していくべきだと考えています。一方で、働き方の実態が労働者であると疑われるにもかかわらず、契約形態が請負・委任等にされている「偽装雇用」「偽装フリーランス」の問題について対策が講じられていない点や、近年の課題であるプラットフォーム事業者への規制がなされていない点、フリーランスが集団となって事業者と交渉する集団的交渉の実現に向けた議論がない点など、不十分と言わざるを得ない部分もあります。これらの問題についても改善がみられるよう、情報発信していきたいと思います。

 

 

労組事務所退去を求めた枚方市は不当労働行為(弁護士河村学)

2023-07-12

労働組合事務所退去を求めた枚方市の行為は不当労働行為  ~枚方市不当労働行為事件~

弁護士 河村 学

 大阪府枚方市(大阪維新の会公認で当選した伏見隆市長)で、市当局が、市職員で構成する労働組合に対し、その組合事務所の自主的退去を通告するという事件がありました。しかも、労働組合がどうして明渡しを求めるのか、どういう根拠に基づくのかなどの説明と協議を求める団体交渉申し入れについては、「地公法(地方公務員法)の趣旨に照らし」てという理由でこれを拒否するというものでした。

枚方市の行為は、枚方市と労働組合との交渉、枚方市の許可のもと、何十年も使用してきた組合事務所について一方的に退去を通告し、その説明・協議を求める団体交渉には応じないという労働者・労働組合の権利を踏みにじる極めて強権的な行為でした。また、枚方市が通告の際に理由としたのは、組合が、組合ニュースに、安倍政権や大阪維新の会など「政権や特定政党への批判的な記事」を掲載したことが、組合事務所の使用許可条件に違反するというもので、憲法でも認められている組合の政治的表現そのものを不利益を与える根拠にするものでした。しかも、実際には、市当局の意に沿うかどうかで扱いも異なる露骨なものでした。

労働組合の活動やニュースの内容に直接干渉し、それが功を奏しないからといって労働組合に組合事務所追い出しという大打撃を与える、このような枚方市の無法な行為に対して、労働組合は、これが不当労働行為にあたるとして救済申立てを行いました。そして、申立てを受けた大阪府労働委員会は、組合の主張を認め、枚方市の行為を不当労働行為に該当するとし、枚方市に対し、①労働組合と団体交渉に応じること、②伏見枚方市長が、労働組合に対し、枚方市が組合事務所の明渡しを求め、また、団体交渉を拒否したことにつき、「今後、このような行為を繰り返さないようにいたします」と誓約する文書の手交を命じました(2020年11月30日付)。

その後、枚方市はこれを不服として命令の取消訴訟を提起していましたが、大阪地裁(2022年9月7日)に引き続き、今般、大阪高裁でも枚方市の請求は棄却され(2023年6月16日)、枚方市の敗訴が確定しました。

公正・中立でなければならない地方自治体が、率先して違法行為を行うというのは本当にみっともないことで、恥ずべきことです。その違法行為が、市長の党派的立場を守るために行われていたのであれば、なおさらです。

民主主義は、自由な言論の上に成り立つものであり、また、憲法が保障する労働者・労働組合の権利は、政治的活動も含め幅広い自由な活動が保障されてこそ守られるものです。自らの権力を利用して異論を封じようとする政治は、真実を知られることを恐れ、市民・労働者の生活や権利が現在の政治によって抑圧されていることを隠すために行われるものといえるでしょう。民主主義のためには、何よりも自由であることと、少数者・社会的弱者の活動が保護され、その声が届く社会が求められます。

フリーランスに対するハラスメントを違法とする東京地裁判決

2022-08-02

弁護士 清水亮宏

 2022年5月25日、東京地方裁判所は、フリーランスに対するハラスメントを違法とする判決を出しました。

事案は、エステサロンを経営する会社との間で、ウェブサイトの記事執筆等を内容とする業務委託契約を結んだフリーライターの女性が、会社の代表者からセクシュアルハラスメント(打ち合わせ中に性体験を聞かれる、下半身を触られるなど)を受けたとして、会社と代表者に対して、慰謝料などの支払いを求めたというものです。東京地方裁判所は、会社とその代表者に、慰謝料150万円を認め計188万円の支払いを命じました。この判決では、代表者の言動が女性の性的自由を侵害すると指摘するとともに、会社にも安全配慮義務が認められると判断しました。

パワハラやセクハラをはじめとする「ハラスメント」は、会社と雇用契約を結んで働く「労働者」を対象としたものであると考えがちですが、労働者に限定されるわけではありません。近年も、スポーツ業界のハラスメントが度々問題となるなど、広くハラスメントの防止を求める声が高まっています。

フリーランスに関しては、日本俳優連合等が「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」を実施し、厚労省に提出した上で、フリーランスに対するハラスメントの防止を呼びかけるなど、社会的な動きも見られるところでした。

今回の東京地裁判決は、フリーランスに対するハラスメントも違法となり、加害者個人だけでなく、取引関係にある会社も賠償責任を負うことを明確にした点で非常に意義があるものです(会社側が控訴せず、判決が確定したとのことです。)。

取引先等からハラスメントを受けた場合、今回の判決を活用できるかもしれません。また、私たちがハラスメントの加害者にならないように注意することも大切ですね。

悩んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひ当事務所にご相談ください。

ローソン店舗従業員がローソン本部と画期的和解

2022-01-11

ローソン従業員がローソン本部と画期的和解                   弁護士 清水亮宏

ローソンの加盟店オーナーが経営する店舗で働いていた従業員が、給与・残業代未払いやオーナーによるパワハラの被害を受け、ローソン本部とオーナーを提訴していた事案で、画期的な和解が成立しました。

当事者となったローソン従業員は、オーナーから日常的に暴力・暴言等のパワハラを受けていました。深刻な長時間労働も存在し、休日はほとんどなく(1年を超える連続勤務もありました。)、店舗内に24時間以上滞在することも珍しくありませんでした。しかも、ある時期から給料が支払われなくなったのです。

従業員は、ローソン本部とオーナーに対し、未払い給料約1000万円、慰謝料300万円余りの損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。約6年の審理を経て、2021年6月に和解が成立しました。ローソン本部が、原告に対し、一定の解決金を支払うとともに、労働関係法(労働基準法など)の遵守について加盟店に指導を行い、従業員が働く喜びを感じる職場環境の整備に努めること等を内容とするものです。「直接の雇用関係にないローソン本部がどこまでの責任を負うのか」というのこの裁判の課題でしたが、この点を克服する内容の和解をすることができ、弁護団としても好意的に受け止めています。

本事件は、複数人の弁護団で取り組んでおり、関西合同法律事務所の喜田崇之弁護士も弁護団の一員でした。

フジ住宅ヘイトハラスメント裁判 高裁でも勝訴

2022-01-06

フジ住宅ヘイトハラスメント裁判 高裁でも勝訴                                 弁護士 西口加史仁

2021年11月18日、大阪高等裁判所で、フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の控訴審判決が言い渡されました。原告側の勝訴と評価できる内容です。関西合同法律事務所の河村学弁護士、清水亮宏弁護士および西口が、同裁判の原告弁護団の一員として闘っていますので、同裁判の顛末を報告します。

この裁判は、フジ住宅や同社の会長が従業員に配布していた資料(書籍・論文・従業員の感想文など)の中に「韓国人はうそをつく国民性」などのヘイトスピーチを含む内容が大量に含まれていたこと等を理由に、フジ住宅の従業員が、慰謝料などの支払いを求めた裁判です。

2020年7月2日、大阪地方裁判所堺支部で、「社内において全従業員に対し、ヘイトスピーチをはじめ人種民族差別的な記載あるいはこれらを助長する記載のある文書や会長が信奉する(政治的)見解が記載された文書を大量かつ反復して配布する行為」などの違法性を認め、会社及び会長に110万円の支払いを命じる判決が出されました。

これに対し、会社及び会長は判決を受け入れることなく控訴し、また、原告側も一審判決の不十分な点を是正すべく控訴しました。さらに、一審判決後も、会社は資料配布をやめる気配は無く、相変わらず人種差別的な資料を配付し続けました。加えて、「原告は今も在籍して働いていると思うと虫唾が走ります」などと原告攻撃を内容とする他の従業員の感想文を大量に配布するなど、原告に向けた攻撃もより一層激しさを増すようになりました。

このような事態を受け、原告側は、控訴審で人種差別的資料及び原告個人攻撃資料の配布を差し止める請求を追加するとともに、直ちに配布を禁ずるべく仮処分も申し立てました。そして、控訴審判決は、一審判決に引き続き、会社及び会長が行ってきた人種民族差別的な資料配布などの違法性を認め、損害賠償額を増額して会社及び会長に132万円の支払いを命じ、さらに資料配布の差止めを命じました。また同時に、直ちに配布を禁ずる仮処分命令も出しました。

そして、判決では、職場において差別的思想が醸成されないないよう雇用主に配慮を求める職場環境配慮義務が肯定されています。企業におけるレイシャル・ハラスメント(人種に関するハラスメント)の根絶の足掛かりになる判決となることを期待しています。もっとも、会社及び会長は、未だに判決を受け入れることなく争う姿勢を見せており、裁判は続く見通しです。職場における労働者の人格権保障のため、会社が変わってくれることを信じて今もなおフジ住宅で働き続ける原告とともに我々弁護士や支援者達が一体となって、今後も闘っていきます。この記事をご覧の皆様にも、引き続き、大きなご支援をお願いいたします。

はたらく者の待遇を平等に~日本郵政事件最高裁勝利判決~

2020-11-30

はたらく者の待遇を平等に~日本郵政事件最高裁勝利判決~

          弁護士 河村 学

1 パート・アルバイト・契約社員・派遣など非正規で働く人たちに朗報です。これまで、非正規で働く人たちは、「非正規」だからという理由で差別され、給料は安くて当たり前とか、手当が付かないのは仕方がないとか思わされてきました。しかし、多くの「非正規」で働く人たちは、心の中では「正社員とほとんど同じ仕事をしているのに、どうしてこれほどまでに格差があるのか」「差別ではないか」と思っていたはずです。2020年10月15日に出された日本郵政事件を含む5つの最高裁判決は、戦後はじめて「非正規」で働く人たちには「不公正な処遇」が行われていることを認め、その格差の賠償を使用者に命じました。まさに歴史的快挙です。

2 日本郵政事件では、年末年始手当(正社員には郵便局の職員は年末年始も働かなければならないという理由で特別手当が出されていましたが、期間雇用社員には出ていなかった)を支給しないのは違法とされました。

また、夏期冬期休暇(正社員には法律で定められている年次有給休暇とは別に特別な夏休み、冬休みがありましたが、期間雇用社員には与えられていなかった)を与えないのは違法とされました。

さらに、正社員に支給されている住宅手当・扶養手当について、「相応に継続的な勤務が見込まれる」期間雇用社員について支給しないのは違法とされ、病気休暇(正社員には病気で休まざるを得ないときにも給料が保障されるが期間雇用社員は無給だった)についても違法とされました。

この事件だけでも、支給対象となる期間雇用社員に対して多額の損害賠償が認められました。

3 これらの手当を支給している会社はどこにでもあります。同じように問題にすれば、非正規の格差是正は一気に進む可能性がありますし、生活改善に繋がっていくでしょう。中小零細の事業主は、大企業や国等に応分の負担を求め、これを非正規の処遇改善につなげる取り組みをしましょう。同じような仕事をしている人が、同じように報われる社会を実現するため、さらに取り組みを強めていきましょう。

【債権法改正】消滅時効の規定が変わりました

2020-09-07

弁護士 高橋早苗

 2020年4月1日から改正された民法が適用されるようになりました。今回の改正された条文は多数ありますが、ここでは消滅時効について説明します。

消滅時効とは、権利を行使しないままでいると一定期間経過後にその権利が消滅してしまうという制度です。これまでは、原則的には権利を行使することができるとき(例えば個人の間でのお金の貸し借りなどの場合は返済期限)から10年とされていましたが、飲食代や宿泊代は1年、弁護士の報酬は2年、医師の診療報酬は3年など職業によって10年より短期の消滅時効が定められているものもありました。また、商行為によって生じた債権は「商事消滅時効」として5年とされていました。

今回の改正では、原則として一律に「権利を行使することができると知った時から5年」、「権利を行使することができる時から10年」とされました。

ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行によるものも不法行為によるものも)の時効期間は原則と異なり、損害および加害者を知った時から「5年」、権利を行使することができる時から「20年」の時効にかかるとされました。生命・身体への侵害はそれ以外に対する侵害よりも重大ですから、時効期間をこれまでの3年から5年へと長期化したのです。これに対し、不法行為によって生命・身体以外の損害を受けた場合(例えば自分の所有物を壊されたなど)の不法行為に基づく損害賠償請求権は、これまでと変わらず、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年の時効にかかります。

なお、労働基準法も改正され、2020年4月1日以降に支払日がくる労働者の賃金請求権の消滅時効は,従来の2年から3年に延長されました(労基法115条で5年とされましたが,同法143条2項で当分の間3年とされました。)。

また、今回の改正ではこれまで時効の「中断」と呼ばれていたものを「更新」、「停止」と呼ばれていたものを「完成猶予」と呼び用語をわかりやすくしました。時効の「更新」とは、更新事由があれば時効期間がリセットされ、また一から時効期間が始まるという制度です。これに対し、時効の「完成猶予」とは、時効期間が進行しているものの、猶予の事由が生じている間は、時効の進行が止まり時効が完成しないという制度です。猶予事由が終了すると、引き続き残りの時効期間が進行することになります。当事者間の協議による時効の完成猶予の制度も新設されました。

どのような事由が「更新」や「完成猶予」にあたるか、ご自身の請求権やご自身の抱える債務が時効にかかるかどうかなど、ぜひご相談ください。

【コラム】会社を辞めたい!そんなときに

2020-03-24

会社を辞めたい!

でも、「今辞められると会社に大損害」「次の人が見つかるまで待って欲しい」「会社の規定ですぐには辞められないことになっている」と言われてしまい、なかなか辞められない…。そんな相談を多く聞きます。

最近では、本人に代わって会社に退職を伝える“退職代行サービス”なるものが話題を集めるまでに至っています。

このコラムでは、退職に関するよくある疑問にお答えしましょう。  弁護士清水 亮宏

Q1 契約書や就業規則に「退職には会社の承認が必要」と書かれていたら…?

A  無視して退職しましょう。

【解説】原則として、2週間前に通知すれば、いつでも退職することができます(民法627条1項)。この法律に反して、労働者側に不利な合意をしたとしても、その合意は無効になります(労働者側に有利な合意は可能です。)。会社の承認を条件とする合意や就業規則の規定は、2週間前に通知すればいつでも退職できるとする民法627条1項に違反することになりますので、無効になります。2週間前に通知すれば退職できるのです。

○契約社員の場合(契約期間が定められている場合)

契約社員については、病気で働けなくなってしまった場合など、「やむを得ない事由」があるときに退職することができるとされています(民法628条)。ただし、契約社員についても、就業規則や契約書において、2週間前の通知により退職できる旨を定めている会社がありますので、一度チェックしてみましょう(法律の定めよりも労働者側に有利な合意をすることは可能です。)。また、このような定めがなくとも、会社と合意すれば、いつでも退職することが可能です。

※年俸制の場合には3か月前までに通知する必要があります(民法627条3項)

Q2 「退職の3か月前に申し出なければならない」などと期間が延長されていたら…?

A  必ずしも延長された期間を守る必要はありません。柔軟に対応しましょう。

【解説】原則として、2週間前に通知すれば、いつでも退職することができます(民法627条1項)。この法律に反して、労働者側に不利な合意をしたとしても、その合意は無効になります。2週間より長い期間が定められていたとしても、2週間前に通知すれば退職できると考えてよいでしょう。

この問題については裁判例もあります。高野メリヤス事件(東京地判昭和51年10月29日)では、2週間の期間を延長することはできないと判断されました。「民法第六二七条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である。従って、変更された就業規則第五〇条の規定は、予告期間の点につき、民法第六二七条に抵触しない範囲でのみ(たとえば、前記の例の場合)有効だと解すべく、その限りでは、同条項は合理的なものとして、個々の労働者の同意の有無にかかわらず、適用を妨げられないというべきである。」

○期間を守っておいた方が無難??

「退職の3か月前」など、あまりに長い期間を定めている場合には無視して退職してよいと思いますが、「退職の1か月前」など、期間があまり長くなく、期間を守っても大きな支障がないような場合には、期間を守っておいた方が“無難”ではあるでしょう。柔軟に対応すればよいと思います。

※契約社員の場合は、「やむを得ない事由」があるときに退職することができるとされています(民法628条)。Q1をご参照ください。

Q3 具体的にどうやって辞めたらいいの??

A  退職届を出しましょう。

退職届を作りましょう。以下のような文面で構いません。

①退職日を決めましょう。有給休暇が残っている場合は、残っている有給の日数を調べて(有給の日数についてはインターネットで調べられます。)、有給を取得する旨も記載するようにしましょう。

②理由は「一身上の都合」で構いません。

③「退職願」ではなく「退職届」にしましょう。「退職願」は、退職を願い出る形になりますので、会社から引き留められる可能性が高まります。退職することを届け出る「退職届」にしておく方が無難でしょう。

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退職届

 この度、一身上の都合により、○○○○年○月○日をもちまして退職いたします。
なお、○○○○年○月○日から退職日までの期間については、有給休暇を取得
いたします。

○○○○年○月○日

 ○○○○ 印

 ○○株式会社

代表取締役 ○○○○ 殿

 

転居命令違反を理由とする解雇を無効とした事例【判例紹介】

2020-02-03

「転居命令」違反を理由とする解雇について、下級審の裁判例を紹介します。

東京地裁平成30年6月8日判決(判例タイムズ1467号185頁)です。

http://www.hanta.co.jp/books/8232/

事例は、被告会社が、原告を東京本社から茨城工場へ配置転換してから1年後に、通勤時間が片道3時間となるということで、茨城工場近くに転居するよう「転居命令」を発したが、原告が従わなかったことから、解雇したという事案です。

東京地裁判決は、「転居命令」についても、転居を伴う転勤命令と同様の判断基準を示し、本件転居命令は業務の必要性を欠き権利濫用であって無効と判断しました。

「被告会社は、原告との個別の合意なくして原告の勤務場所を決定し、勤務先の変更に伴って居住地の変更を命じて労務の提供を求める権限を有する。さらにその権限に基づき、使用者は、配置転換等の業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所や居住地を決定することができる。しかしながら、転居は、一般に労働者の生活環境に少なからず影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権(転居命令権)は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない。」とし

①業務上の必要性が存在しない場合、②他の不当な動機、目的をもってなされた場合、③労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合の基準を示しました。

本件転居命令について、①原告は片道3時間であるが、配転後1年間、無遅刻無欠勤で通勤している、②原告が長時間通勤や身体的疲労を理由に仕事の軽減や業務の交替を申し出たことがない、③原告の業務は、早朝夜間の勤務の必要なく、緊急時に対応するという必要も考え難い業務である、として、原告が工場の近くに転居しなければ労働契約上の労務の提供ができないとはいえず、業務の必要性がないと判断しました。

「転居命令」が独立で発せられ、争われた事例は見当たらないそうで、裁判所が、転居を伴う転勤命令と同様の判断基準を示したこと、実際の事例に当てはめて判決したことが参考になります。

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地下鉄/谷町線・堺筋線 南森町駅
2号出口から 徒歩 約10分

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