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[労働]に関する記事

最高裁も認めた!個人請負・個人委託も労働者

2013-01-01

最高裁も認めた!!個人請負・個人委託も労働者

弁護士 河村 学

自分は「請負だから」「委託だから」、会社に対しては何も言えないと思っていませんか。

実は、2012年2月21日に出された最高裁判決、そして2013年1月23日に出た東京高裁判決によって、裁判所は、 請負・委託で働く人たちが労働組合を作り、会社と団体交渉を行うことや、ストライキその他の団体行動を行うことを権利として認める重要な判断を行いました。

事案は、音響機器等のビクターの製品を出張修理する業務に従事している就労者が、契約名目としてはビクター子会社と業務委託契約を締結しているとされ、会社から個人業者の扱いを受けていたという事案でした。会社のこのような取扱いのため、会社からの一方的な就労条件の切り下げにも文句がいえず、嫌なら契約を切るという脅しの中で無力だった就労者が、同じように働く就労者と話し合って労働組合を結成し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社は労働者でないののだから交渉には応じないとして、これを拒否したのです。

この事案で、最高裁は、少し前に出ていた別事件の最高裁判決(新国立劇場事件・INAXメンテナンス事件各最高裁判決:平成23年4月12日)と同じく、①会社組織への組み込み、②契約内容の一方的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤指揮監督下の労務提供・時間的場所的拘束、の5つの事情を挙げて、本件の就労者は、特段の事情のない限り、 労働組合法で保護される労働者にあたると判断しました。

契約名目が業務委託であっても請負であっても、労働者かどうかは、働く実態に即して客観的に決めるべきと明言した点で画期的な判断でした。裁判の差し戻しを受けた東京高裁は、本件の就労者には事業者とみられるような特段の事情もみあたらないとし、会社の団交拒否は不当労働行為にあたるとしました。
「雇用の多様化」の名の下に、労働者を保護するさまざまな規制を免れようとする企業が多くなっているなかで、労働者を保護するかどうかは、会社による形式的な定めや取扱いではなく、保護されるべき実態があるかどうかで決めるとする今回の判決は、極めて重要です。

自らに権利があることを知らない人に広げ、働く仲間と手を取り合って、よりよい労働条件を求めていきましょう。

 

三井マリ子さん 高裁の逆転勝訴判決が最高裁で確定

2011-02-01

三井マリ子さん 高裁の逆転勝訴判決が最高裁で確定

             弁護士寺沢勝子

 

男女平等を阻もうとする一部勢力の圧力(バックラッシュ勢力といいます)に屈して、豊中市の男女共同参画センター「すてっぷ」の非常勤館長だった、三井マリ子さんを平成16年3月末に雇い止めした事件で平成22年3月30日、大阪高裁で慰謝料の支払いを豊中市と豊中市男女共同参画財団に命じる逆転勝訴の判決が出ました。

豊中市と財団は最高裁に上告していましたが、平成23年1月20日、最高裁は上告を棄却し、勝訴判決が確定しました。

三井さんは「すてっぷ」の館長として男女平等政策を押し進めてきましたが、なんとかして三井さんを辞めさせて男女平等を阻もうとするバックラッシュ勢力は、嫌がらせをしたり、ビラをまいたり、夜人気のないところで三井さんを含む女性たち3人を市会議員が机をたたいて怒鳴るなどを繰り返してきました。しかし、三井さんはひるまなかったのでみませんでした。豊中市は男女共同参画条例(市長の公約)を通すため、豊中市は三井さん排除に乗り出しました。三井さんには組織変更の中身を隠し続け、常勤館長は「第一儀的には三井さんです。」とウソをつき、「三井さんを押しのけてまで館長になるつもりはありません。」と言う新館長予定者にもウソをついて「あなたしかいない。」と説得して承諾させ形だけの採用試験をして新館長を採用しました。

一審では1年契約を更新されるという期待権はなかったし、採用試験も適正に行なわれたとして敗訴しました。

しかし、高裁判決はバックラッシュ勢力の攻撃の実態と豊中市がこの攻撃に屈していく様子を詳しく認定。「一部勢力の動きに屈し」て行った豊中市の部長と財団の事務局長の行為 は現館長の地位にある「三井さんの人格を侮辱した」としました。

他の自治体でもバックラッシュ勢力は教育、男女平等など対象を変えて攻撃をしてきています。行政の中にはこれに屈して、姿勢を曲げてしまうものも多いのですが、バックラッシュ勢力の攻撃とそれに屈していく行政のありようをしっかり認定したうえで、人格権侵害を認めたこの判決の意義はたいへん大きく、最高裁でも勝訴して確定したのです。

 

労働者派遣法改正について

2010-01-11

労働者派遣法改正について 弁護士 須井 康雄

1 皆さん、労働者派遣法(派遣法)という法律をご存知ですか。皆さんがどこかの会社で働く場合、その会社に雇われるのが自然な形でしょう。
2 しかし、どこかの会社で働いていても、雇い主がその会社ではなく、別の会社であるという働き方を認める派遣法が昭和六〇年に成立しました。ある会社(派遣元)に雇われて、他の企業(派遣先)に働きに行くということです。
3 派遣法ができるまで、このような働き方は厳しく禁止されていました。どうしてでしょうか。戦前は、人身売買のような職業紹介によって、ひどい労働環境の下で強制的に働かせたり、賃金の上前をはねたりすること(中間搾取)が横行していました。しかし、一人ひとりの人格を尊重することをうたった日本国憲法が成立しました。中間搾取や強制労働は、個人の尊重という日本国憲法の理念に合わないものです。
  また、派遣先は派遣労働者を直接雇っておらず、派遣元は派遣労働者を直接指揮していないため、派遣労働者の保護がおろそかになる危険があります。
  そこで、中間搾取が行われたり、労働者の保護がおろそかになりかねない働かせ方を禁止していたのです。
4 このような問題点があったため、当初は、一時的、臨時的な仕事が前提とされ、労働者派遣ができる仕事も限られていました。
  しかし、派遣法が成立して23年、この23年の間に、ほとんどすべての仕事について、労働者派遣ができるようになりました。
  そして、様々な問題が起こってきたのです。
5 一番大きな問題は、派遣労働者の生活が不安定だということです。正社員と同じ仕事をしているのにもかかわらず、多くの場合、給料は正社員よりも低く抑えられています。仕事を通じた人生のステップアップや、さらには、結婚、住宅の取得など全く見通しがつかない状況に多くの派遣労働者が置かれています。
  そして、景気が悪くなると簡単に派遣労働者の雇用が打ち切られます。派遣労働者は、一瞬にして生計を奪われ、寮に入っていれば、寮を追い出され、たちまちホームレスになってしまうのです。滑り台社会です。
  2008年から2009年の年末年始にかけて東京で派遣村の取り組みがなされ、たくさんの人に食・住が提供されました。大阪でも、各地で相談会が開かれました。
  当事務所の近くに、扇町公園という広い公園があります。相談会の案内をして回った人の話では、身なりに変わりのない人が夜一人でベンチに座っていたといいます。最初は、家があるのかどうか分からなかったのですが、思い切って声をかけてみると、やはり家を失ったということでした。相談会では、雇用を打ち切られ、交通費すらなく遠方から歩いて相談に来た人が、実際、私の目の前に案内されて来ました。
  衣食住すら保証されない貧困の危機が、私たちのすぐ隣に存在します。私たちはこのことに気付く必要があります。
6 派遣法には様々な規制があるのですが、そのような規制に違反する事態も各地で多発しました。
  そこで、派遣法の抜本的な改正を求める声が沸きあがってきました。
7 派遣法改正の動きに直面して、財界や派遣会社は、必死の抵抗を行なっています。そして、次のような主張を展開しています。
  第一に、努力したら正社員になれるのではないかという主張です。しかし、多くの企業は、正社員を減らし、派遣社員をはじめとする非正規社員の採用を増やしています。正社員としての求人が十分にないのに、一体、どのように努力をしたらよいのでしょうか。
  第二に、派遣労働という働き方をしたい人もいるという主張です。しかし、ある研究所の報告では正社員になりたいという非正規労働者(パート等も含んでいます。)の数を400万人と推定しています。不本意な働き方をしている人がほとんどです。また、派遣社員でも会社に縛られます。相談者の多くは、契約期間を理由もなく1か月、2か月とされながら、面接では、すぐに辞められると困るなどと会社から言われています。
  第三に、派遣労働を禁止したら、企業が賃金の安い海外に行くのではないかという主張です。しかし、経営者側のアンケートで製造業への労働者派遣が禁止された場合、工場の海外移転を検討すると回答した企業はわずかです。工場の海外移転には多額の費用も必要で、技術の流出、国民性・法制度の違いによるリスクも無視できません。労働者派遣の禁止により海外に工場が移転するというのは論理に飛躍があります。
8 派遣労働者の数は、平成20年末の発表で381万人とされています。いまだ多くの派遣労働者が将来の展望も持てないような労働条件で働いています。このような働かせ方を終わらせる必要があります。
  そこで、派遣法の早期抜本改正を求める署名用紙を同封しました。内容は、製造業への派遣の禁止、派遣労働者の雇用を不安定にする登録型派遣の禁止、正社員と同じ待遇の義務付けなどです。
  一人でも多くの方に署名へのご協力をお願います。

滋賀ブラジル人支援に取り組んで

2009-05-01

~滋賀ブラジル人支援に取り組んで~

     弁護士 喜 田 崇 之

大阪、神戸の新人弁護士の有志9名を中心に、2009年の2月から、滋賀のブラジル人学校支援の活動を続けている。昨今の不況を背景として、大量のブラジル人派遣労働者が職を失い、ブラジル人学校の授業料が支払えなくなり、子供たちの多くが未就学児童となっている。

そんな彼らの力になるために、4月29日、滋賀で大がかりな無料法律相談会を開催することとした。

相談会の前には、在日ブラジル人の多くが利用するIPCというメディアに協力を依頼して、相談会の件を新聞記事にしてもらったり、テレビ放送、インターネットニュースにも乗せてもらい、十分な告知を行った。

相談会当日は、同期を中心として弁護士が11名、滋賀の労働組合から1名、通訳者4名の体制で臨んだ。

場所は、滋賀県愛荘町にあるサンタナ学園というブラジル人学校の教室。プレハブの建物4つに、それぞれ相談ブースを作り、相談に臨んだ。毎日新聞、京都新聞、中日新聞の各新聞社と、NHKが取材にやってきた。
改めてこの問題の注目の高さを感じた。

午後1時から午後4時すぎまでに、12組の相談者がやってきた。

相談の中で特に多かったのは、派遣労働者が職を失ったことに関する問題であった。

期間雇用の途中であるにもかかわらず、理由を告げられずに解雇予告されるケースや、雇用期間満了時に、日本人は契約が更新されるにもかかわらず、同じ職場の外国人だけが雇い止めに遭うケースなどがあった。

また、派遣会社が雇用保険料を支払っていないケースが多く、それゆえスムーズに失業保険を受給できないで困っているという相談も多かった。
また、派遣会社が離職票をなかなか渡してくれなかったり、離職理由が事実と異なっていることが多々あった。

相談者の多くは、会社に対して権利主張をすることで、ハローワークに行っても仕事を紹介してもらえなくなったり、別の会社からも採用を拒否されると思いこんでいる。彼らの権利意識が、企業の刷り込みによって抑え込まれているように感じた。

今回の相談会を行ったことも手伝って、徐々に我々の取り組みが地元で浸透しだした。彼らのコミュニティーとの信頼関係を今後も構築し、ブラジル人支援の取り組みを今後も継続していく予定である。

労働問題のしわ寄せが今、子供たちの教育の機会を奪う形で及んでいる。弁護士として何ができるか、考えていく次第である。

 

大阪市バス賃金カット事件 賃金減額を違法とした例

2008-11-18

-大阪運輸振興事件-

大阪市の外郭団体が市職員の人事委員会報告に準拠して賃金減額を行った件について、

 賃金減額を違法とし、差額賃金の支払を命じた例

弁護士 河村 学

 1 本件は、大阪市の監理団体である大阪運輸振興株式会社が、市職員の給与に関する人事委員会報告の支給率に準拠して、大阪運輸振興職員に対して賃金減額を行った事案である。
この事案について、大阪運輸振興の14名の職員が、賃金減額分の賃金請求を行った。その後、以下のように推移し、今般、最高裁が上告不受理の決定をし、大阪高裁判決が確定したので、この件を報告する。
大阪地裁判決2006年3月8日
大阪高裁判決2006年12月22日
最高裁上告不受理決定2008年11月18日

2 事案の概要

(1) 大阪運輸振興は、大阪市の退職者の雇用確保等のために市が主導して設立された株式会社であり、大阪市が実質的な支配株主で、かつ、会社取締役や役職者は市職員の退職派遣職員とOBで占められている会社である。同社は、大阪市の監理団体とされ、経営に関し大阪市が指導権限を有し、その内容については市議会への報告が義務づけられている。
大阪運輸振興の当時の従業員は749名であり、多数組合である大阪交通関連企業労働組合(関企労。組合員数685名)と少数組合である大阪市バス労働組合(市バス労組。組合員数12名)があった。原告らは市バス労組組合員である。
(2) 大阪運輸振興職員の給料は、経歴加算された初任給基準に、年2回一定額の昇給がなされる旨の規定があるのみで、賃金減額の方法や新規採用者以外の賃金が初任給基準により算定されるという規定はなかった。同社職員のベースアップについては、大阪市職員の給与についての人事委員会報告の支給率に準拠、連動して増額改定が行われ、1994年からは関企労との間で賃金改定について労使協定も結んできた。
なお、原告ら職員は2002年4月1日に入社している。
(3) このような状況下で、2003年12月頃までには、人事委員会が大阪市に対して基本給の0.14%の増額を勧告した。
しかし、大阪市はこれに従わずに賃金減額の方針を打ち出し、これに伴い大阪運輸振興も賃金減額の提案を組合に行った。
この提案について関企労とは妥結したものの市バス労組とは妥結に至らず、同社は、関企労と妥結した1.41%について初任給基準を減額改定するとともに、2004年1月1日から全職員に対し賃金減額を行った。
(4) 本件の争点は、賃金減額の法的根拠の有無である。

3 大阪地裁判決

(1) 一審判決は原告らの敗訴であった。
一審判決は、まず、在籍職員の賃金改定については、従前の賃金額に一定率を乗じることによって画一的に改定されてきたこと、及び、就業規則の下位規範である初任給基準を改定することにより、その改定された支給率の内容を在籍職員の賃金にも反映させるという労使慣行が存在したと認定した。
すなわち初任給基準の改定により在籍職員の給料も増減されるという規範が労使慣行として存在するとしたのである。
そして、就業規則の不利益変更の要件を充たす場合には、初任給基準の改定により賃金改定を行うことができると判断した。
(2) その上で、就業規則の不利益変更の要件を充たすか否かの検討をし、財政状況が悪化していること(同社の収益のほとんど全てが大阪市からの受託収入であるから、大阪市が委託費用を減額すれば必然的に同社の収支は悪化する)、原告らが被る不利益は格別大きいものではないこと、多数組合である関企労が本件賃金改定に同意していることなどから、不利益変更の合理性があるとした。
(3) 月額16万円から17万円の基本給である原告らについて年間で最大5万6000円の減額になるという本件賃金改定について「格別大きな不利益とはいえない」と言い切る裁判官の判断は、労働者の生活実態を全く顧みようとしない極めて不当なものであったが、それ以上に、一方では監理団体であっても大阪市とは別の経営体としながら、他方では大阪市の方針に従った賃金減額については外郭団体の職員はは従って当然とする裁判官の根底的な認識に憤りを感じさせる判決であった。

4 大阪高裁判決

(1) 高裁判決は、一審判決を変更し、原告らの賃金請求をほぼ認める判決を行った(但し賞与部分については棄却)。
(2) 高裁判決は、まず、初任給基準は就業規則の下位規範であるとしながらも、文面上は初任給の額を規定したものとしかみることができなのいで、この初任給基準が在籍職員の賃金算定の基準額としての規範を有するものか否かについては別途の考慮が必要であるとした。
(3) その上で、高裁判決は、事実としては、職員の賃金額については画一的取扱いをしてきたこと、改定に当たっては従前の賃金額に一定率を乗じることにより画一的改定が行われてきており、その際同率の初任給基準を改定し、その賃金改定の内容を初任給基準に反映させるという処理が繰り返し行われてきたことを認めた。
しかしながら、同判決は、その事実から直ちに初任給基準改定により在籍職員の賃金が増減するという規範が確立していたとはいえないとした。
(4) そして、具体的には、
①過去の労使交渉においても就業規則の改定という形で問題が提起されたことはなかったこと、
②在籍職員は過去に賃金改定について異議を述べたことはなかったが、それは過去に賃金が減額されたことがなく、初任給基準の記載が職員にとって緊要な問題ではなかったからであること(賃金改定の妥結の結果を初任給基準に反映させていたに過ぎないこと)、
③初任給基準が在籍職員の賃金増減の基礎額になるとか、その改定が賃金の増減に連動するなどという趣旨の規範内容について、
特段の説明・周知された事実がないこと等の事実があることからすれば、「就業規則及びこれと一体をなすものとしての給与規程・初任給基準は、
『成熟した労使慣行』に基づいて上記のような規範内容を含むものであるということはできず、本件給料改定は、就業規則及びこれと一体をなす
下位規範の内容を変更したものと評価することはできないというべきである」とした。
その結果、本件賃金改定は、「判例上許される就業規則の不利益変更という方法によらずに、従業員に不利益に変更したものであり、法律上の正当な根拠に基づくものということはできず、無効である」と結論づけた。

5 終わりに

本件の控訴審判決について、大阪運輸振興が上告受理申し立てをしていたが、これが今般不受理となり、高裁判決が確定した。
自治体の外郭団体においては、自治体の方針に従った労働条件決定がなされがちであるが、本件判決は、その決定過程について、 安易な労使慣行を認めることなく、職員に適用される規定の内容や労使の実態を具体的に検討し、職員に不利な解釈を導かなかった点に意義がある。
外郭団体職員が、使い勝手のよい労働力として利用される昨今において、法的根拠のない労働条件切り下げは許されないという当たり前のことを、当たり前に実践していくことは最低限必要なことである。

 

INAXメンテナンス中労委勝利命令

2007-11-10

労組法上の労働者性を認める
~INAXメンテナンス事件中労委勝利命令                         弁護士 河村 学

1 はじめに
本件は、INAXメンテナンスから形式的に個人業務委託業者として扱われ、INAX製品の修理業務に従事している労働者ら(CEと呼ばれている。CEとはカスタマー・エンジニアのこと)が、組合に加入し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社がCEが個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてその団交申し出を拒否した事件である。
本件は、2004年9月6日にCEの組合加入通知と要求書、団交申入書が提出され、2005年1月27日に、会社の団交拒否が不当労働行為にあたるとして大阪府労働委員会に救済申立がなされた。その後、2006年7月21日に、CEの労働者性を認め、会社の団交拒否を不当労働行為と認定する府労委命令が出された後、会社側が再審査申立をしていた。これに対して、中労委は、2007年10月31日、再審査申立を棄却する命令を出した。

2 CEの就労実態
(1) 会社がCEを採用する手続、会社とCEとの契約等
会社は、CEについて求人広告を出し、これに応募した者に対して面接・筆記試験を行った上でCEとしての採否を決定していた。CEに採用された者は3ヶ月間のアルバイト契約を締結して研修を受け、CE認定制度による資格要件を満たす場合に「業務委託に関する覚書」を締結していた。この覚書はすべてのCEに一律のものであった。

(2) CEの業務内容
CEは、INAX製品の出張修理・点検のほか、製品のリフレッシュサービス、会員契約の仲介等も行っていた。会社の主たる事業である製品の修理・点検等は正社員ではなく、CEによって担われていた。
CEの具体的な業務遂行方法は、会社の定める業務マニュアル等のマニュアルによって詳細に定められていた。このマニュアルには、作業手順・会社への報告方法のほか、CEの心構え・役割、作業用工具・車の整理の仕方、姿勢・あいさつの角度、身だしなみ等まで定められ、その遵守が求められていた。CEは、営業所に出社はしないものの、携帯電話でその日の業務指示を会社から受け、行動予定・行動経過・結果等を携帯電話及びPDAを使って会社に報告していた。業務により得た修理代金は会社にその全額を振り込むよう指示されていた。
CEは、会社が無償貸与する所定の制服を常に着用することを義務づけられ、各CEが所属するサービスセンターの肩書きを付した名刺を配布、所持させていた。顧客を訪問する際には会社の名称を名乗ることとされていた。

(3) CEが業務に従事する時間・場所等
CEの休日は週1日以上で、各CEが翌月分の業務計画を会社に通知することとされていたが、実際には会社が案を作成した後調整を行って決定していた。
会社がCEに業務指示する時間帯は午前8時30分から午後7時までであり、この時間帯はCEは会社からの連絡を受け、業務に従事できる状態にいなければならなかった。
CEは、会社の各サービスセンターに所属し、担当地域としてのエリアを受け持っていた。

(4) CEに対する報酬の決定及び支払
会社ではCEライセンス制度を設け、5ランクに分け、成績によって給料に差が出るシステムを採用していた。
会社は、毎年1回CEの能力・実績・経験などを評価し、ランクの昇格、更新及び降格の判定を行っていた。
CEの給料は毎月1回出来高払いで支払われていた。金額については、会社があらかじめ定めた金額及び計算方法によって支払がなされていた。会社は、支払うべき給料のうちから傷害保険料などを控除してCEに支払をしていた。ただ所得税等の源泉徴収は行っておよず、社会保険・雇用保険にも加入させていなかった。

(5) CEの業務に対する諾否について
府労委の命令では、会社は全国で約570名のCEに対して、ほぼ毎日、CE一人当たり3件から4件の業務依頼を行っており、CEが業務を受託しないことが、多い日で全国で10件程度生じる場合があると認定している。しかしながら、実際には、CEは業務指示を断ることができないし、受託しないような例外的な場合は、業務指示が抵触するため両方の指示を遂行することが不可能な場合(会社が指示を撤回するような場合)に限られているのである。
3 大阪府労委命令
(1) 府労委は、まず、「労働組合法上の労働者とは、使用者との契約の形態やその名称の如何を問わず、雇用契約下にある者と同程度の使用従属関係にある者、又は労働組合法上の保護の必要性が認められる労務供給契約下にある者というべきである」との一般論を述べた。

(2) その上で、府労委は、次のような要素により、本件におけるCEの労働者性を認めた。
①(業務の不可欠性・会社組織への組込) CEは正社員の3倍の約570名であり、かつ、会社の主たる事業はCEによって担われており、会社の事業はCEの存在なしには成り立たない。
②(契約の一律性・一方的決定) 会社とCEとの契約はすべてのCEに関して一律であり、業務従事場所、報酬の算定基礎などCEが従事する際の条件について会社が一方的に決定している。
③(業務の指揮監督) 会社は、CEに対して会社が決定した担当エリア内の業務依頼を行い、また、毎日の報告を義務づけるとともに、業務遂行に関する詳細なマニュアルの遵守を命じているから、CEは、出社こそしていないものの、会社が決定した業務を会社の指揮監督を受けて行っているとみるのが相当である。
また、CEは、業務を行う日の午前8時30分から午後7時までの間は業務依頼の連絡を受けなければならず、また、会社から依頼のあった顧客先に訪問し業務を行わなければならない状況にあるから、会社から依頼された業務以外の業務を行うことは困難であるとみるのが相当である。
④(報酬の労務対価性) CEの報酬は出来高払制ではあるものの、その額は、会社が決めた報酬の算定基礎とCEの経験や業績をもとに会社が判定したCEのランクに基づき決定されているのであって、CEと会社との交渉によりその額が変更される余地はない。他社の業務を行うことが困難であることも考え合わせると、CEが会社から受け取る報酬は、受託した業務の完成に対する対価ではなく、修理業務等の労務に対する対価であるとみるのが相当である。
⑤ 以上のような事実認定から、「CEは、会社が一方的に決定した業務に従事する際の条件の下で会社の指揮監督に従い、会社の事業のためにその労務を提供していると判断でき、会社との関係において労働組合法上の労働者と認めるのが相当である」とした。

4 中労委命令
(1) 中労委命令は、特段一般論を述べることなく、次の5つの要素から、CEの労働者性を認めた。
①(会社組織への組込) CEは、会社の事業遂行に恒常的かつ不可欠な労働力として会社組織に組み込まれていること。具体的には、会社の事業自体CEがいなければ成り立たないこと、会社は顧客との関係においてCE会社従業員として扱ってきたこと、からこの要素を肯定した。
②(契約・業務遂行方法の一方的決定) CEが製品の修理等の業務に従事する際の契約内容は会社が一方的に決定し、業務遂行の具体的方法についても会社が業務マニュアル等で指定する方法によって行うことが義務づけられていること。具体的には、画一的な「覚書」の締結が前提とされ、また、CEライセンス制度により報酬額を一方的に決めるなどにより、会社と個々のCEが個別的に協議交渉して決定ないし変更する余地はなく、かつ想定されていないことを挙げて、この要素を肯定した。
③(業務の指揮監督) CEは、業務遂行の日時、場所、方法等につき会社の指揮監督下に置かれていること。具体的には、午前8時30分から午後7時までの]「委託業務時間帯」は会社がCEを拘束していること、休日の決定は会社が主導的に行っていること、CEが裁量で行うことができるのは顧客への訪問スケジュールの調整程度であり、受注後は会社の指揮監督下に置かれていること、CEの業務遂行は業務マニュアル等会社の指定する方法で行うことが義務づけられていること、担当エリアは会社が決定しておりその範囲で会社はCEの業務場所を拘束していること、CEの業務能力について考課査定を行い、その格付けに応じて報酬の支払額を決定していること、などからこの要素を肯定した。
④(諾否の自由がない・専属的である) CEが会社からの業務依頼を断ることは事実上困難であり、CEは会社との間で強い専属的拘束関係にあること、具体的には、CEが会社からの業務依頼を断るのは、既に別の業務依頼を受けていて対応できない場合にほぼが義等レ手イタこと、会社はCEの
業務遂行状況を理由に担当エリアを削減することがあり、CEは削減を危惧して会社の業務依頼を自由に拒否できなかったこと、などからこの要素を肯定した。
⑤(報酬の労務対価性) CEの受ける報酬はその計算、決定の構造にかんがみ、いわゆる労務対価性が肯認されることが認められる。
これらの点を総合して判断すると、CEは、会社の基本的かつ具体的な指図によって仕事をし、そのために提供した役務につき対価が支払われているといえるのであり、CEは、会社との関係において、労働組合法上の労働者であると判断される」とした。

5 コメント
本件における中労委の命令は、極めて当然の結論である。むしろこのような事件で再審査申立をし、引き延ばしを図った会社の姿勢が問題とされるべきであろう。
本件命令の意義としては、労組法上の労働者性を争う事案について、
①労働者の会社組織への組込(業務の不可欠性)
②労働条件の一方的決定、
③業務の指揮監督
④労働者の専属性(諾否の自由がない)
⑤報酬の労務対価性
の諸点を検討すべきことが、再確認されたことが挙げられる。
ただ、理論的には、労働者概念を個別的労使関係と集団的労使関係で統一的に解すべきか、別異に解すべきかという争いがあり、また、運動的には、「労働者」として扱われてこなかった労働者が、どう組織をつくり、維持していくか、が問われている。「あいまいな雇用関係」が横行している昨今であるから、今後もこの問題を深く追求することが必要である。

クラボウ思想差別事件勝利報告

2005-06-17

思想差別は犯罪だ!

弁護士 河村 学

kurabousyasinn

 

kurabousyasinn

1 みなさん、「クラボウ」という会社をご存じでしょうか。正式には倉敷紡績株式会社。

明治21年創業・資本金220億円・従業員数約1800人という繊維業界の大手企業です。

この会社。「新しい価値の創造」が経営理念だとしておりますが、会社の内部では、古い、とっくに否定された価値観に基づき、従業員が共産党員であるという理由だけで、差別的な処遇を行ってきました。
しかし、このような行為が今の社会で許されるはずはありません。本件について、裁判所はクラボウの行為が違法であることを明確に認定し、これを受けてクラボウと差別を受けた従業員との間で和解が成立しました。和解の内容は、クラボウが差別した従業員2人に対し謝罪し、かつ、2人で合計8100万円の解決金を支払うというもので、同時に、和解時も在職中の従業員については管理職に昇格しました。

2 どのような差別が行われたか

本件の当事者は2人で、両者とも長年にわたってひどい差別を受けてきました。
伊藤さんは、昭和42年に研究員として入社。それ以降、職場の労働条件の改善などのために労働組合の活動に参加し、また共産党員として国政革新の活動にも積極的に行っていました。
すると、クラボウは、昭和51年に「国内留学」の名目で研究職場を追い出して大学に行かせた上、昭和54年に「国内留学」を終了させたとたん、「原動・工作補助」という現業職につけました。そこで、与えられた仕事は、芝刈り、草むしり、蛍光灯の笠のホコリふきなどでした。その後、平成3年に、現業職から、所長の真ん前の机での新聞の切り抜きなどの仕事に変更された後、平成4年から平成10年までは、周囲をロッカーで囲まれた1.5坪の狭いスペースに隔離するという処遇を行いました。昇格面でも、昭和50年以降今年退職するまで一切昇格させられず(同期・同学歴の社員は皆管理職になっています)、賃金面でも著しい差別を受けました。
また、宮崎さんは、昭和46年に技術者として入社。それ以降、共産党員として国政革新の活動をするとともに労働組合大会で「民社党一党支持反対」の意見表明を行ったりしました。
するとクラボウは、昭和52年に、浜松駐在を命じて宮崎さんを隔離し(宮崎さんの担当職では、それ以前もそれ以後も浜松に駐在する人はいませんでした)、退職を強要したりしました。その後、昭和62年まで駐在を継続した後、今度は関連会社に出向させ、現在に至るまで17年以上クラボウに戻さないままにしています。昇格面でも、昭和51年以降27年にわたって一切昇格させられず (同期・同学歴の社員は約9割が管理職になっています)。また、賃金面でも著しい差別を受けました。

なお、差別されたのは伊藤さんと宮崎さんの2人だけではなく、クラボウが共産党員と目した従業員に対しては遠隔地への配転や昇格・昇級差別等の差別的処遇が行われました。

3 大阪地裁第1審勝利判決

この事件の民事裁判は、上記2人を原告として、2000年4月17日に提訴されました。裁判では、伊藤さん・宮崎さんとそれぞれの同期同学歴入社の従業員との比較において、昇給・昇格に格段の差があること、AからEの5段階評価であるクラボウの人事評価制度のもとにおいて、2人に対しては20数年間にわたって一貫してE評価を付けてきたこと、クラボウの職制が共産党からの脱退工作を執拗に行っていたこと(脱退工作を受けた従業員が職制から言われた内容を克明に記録していたことから明らかとなる)、クラボウ自らが発行した社史等にも共産党に対する差別意思が表れていたこと、などが明らかになりました。
これに対し、クラボウは、20人弱の従業員の陳述書等を提出し、昇格・昇給しないのは伊藤さんや宮崎さんの仕事に対する評価が低かったからだなどとして反論しました。しかし、クラボウは評価を低くするような仕事上のミスなどを具体的に挙げることはほとんどできず、逆に、伊藤さんや宮崎さんの業績を高く評価している資料が多数裁判に提出されてあわてふためくといった状況でした。
その後、2003年5月14日に一審判決がなされました。
判決は、まず、クラボウの労務政策について、「倉紡労組と労資協調路線をとり、倉紡労組とともに、共産党員をこれに敵対する者として差別的に取り扱い、他の従業員が共産党員あるいはその同調者となることを抑制することを労務政策の一つとしていた」とし、「共産党員及び同党員を嫌悪し、クラボウに対する共産党及び同党員の影響を極力防止すべく、共産党員である従業員に対して、他の従業員とは異なる取扱いをしていた」ことを認め、クラボウが共産党員に対する差別意思を有していると認定しました。
その上で、原告らの処遇を、クラボウが「共産党員であることを理由として他の従業員より低い評価を行い、その結果、賃金面でも低い処遇を行ってきたことによる」と断じ、このような「信条を理由として差別的な処遇を行うことは、人事に関する裁量権の逸脱であり」、労働基準法3条に反し違法であると明確に結論づけました。
その上で、原告らに対する「差別的処遇は、遅くとも昭和51年5月以降、本件口頭弁論終結時まで継続している」 として、クラボウに対し、差別賃金については、原告らの請求額の満額 (約2160万円と約1800万円)を認め、さらに、慰謝料としてそれぞれ15万円、80万円を、弁護士費用としてそれぞれ230万円と190万円の支払を認めました(合計約2500万円と約2000万円)。
これに対し、クラボウは即日控訴し、原告らも後に附帯控訴しました。

4 大阪労働局への告発・強制捜査

一方で、原告らは、この判決を受け、2003年6月10日、クラボウとその人事担当者を労基法3条違反で大阪労働局に告訴しました。
共産党員であることを理由とする差別的取扱いは、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられる犯罪であるため、犯人の処罰を求めたのです。
大阪労働局は精力的に捜査をすすめ、2004年4月には、クラボウ本社など関係各所の捜索・差押が行われました。その結果、クラボウの差別意思を示す豊富な資料が押収されたようです。大企業が労基法3条違反で強制捜査を受けるというのは、過去にも類例がない画期的なものでした。
その後、この件は、2005年2月9日、大阪地方検察庁に送致されました。労基法3条違反の送致についても、過去に13件しか行われたことがないもので、クラボウのような大企業の送致は極めて異例でした。
こうして、クラボウは、民事裁判でも、刑事手続でも追いつめられていったのです。

5 大阪高裁での和解成立

民事裁判は、大阪高裁に係属していましたが、クラボウの訴訟活動は精気を欠くものであり、もはやクラボウの思想差別については動かし難いと雰囲気の中で進行しました。そして、ついに、2005年3月31日、和解が成立しました。

和解の中心的内容は、①「原判決が控訴人の思想信条による差別的処遇を認定したことを受けて遺憾の意を表する。控訴人は、今後、本和解の内容等も踏まえ、憲法、労働基準法にしたがって、従業員を公平・公正に取り扱うことを確約する」、②クラボウは、解決金として、原告の1人に対して4600万円、他の1人に対して3500万円を支払う、というものでした。また③和解時に在職中の宮崎さんについては(伊藤さんは既に定年退職していた)、2005年4月1日付けで管理職に昇格させることになりました。
なお、刑事手続の方は、和解当日に、大阪地検が本件を不起訴処分としました。ただこの処分は極めて不当なものであったため、現在、検察審査会に申立をしています。

6 終わりに

本件では、伊藤さん・宮崎さんとも四半世紀の長きにわたって思想差別という卑劣な行為を受け続け、これとたたかって来られました。
日々会社の内外でお二人が感じられた悔しさや憤り、悲しみは計り知れないものであり裁判で明らかにされたのはその象徴的な部分にすぎません。また、本件において、クラボウが行ったのは「個人の尊厳」を侵す行為なのであり、その象徴的な部分についてでさえ、本件和解によって償われる性格のものではありません。
本件和解は、過去の裁判例と比較すれば決して水準の低いものではなく、むしろ完全勝利的な和解といえますが僕自身は、思想信条の自由という社会の根源的価値に対する侵害が、この程度にしか解決できない司法の「人権感覚」に強い不満を感じます。
しかし、人の権利が守られるためには「不断の努力」が必要であること、これは日本国憲法が教えるところですし、歴史が教えるところです。伊藤さんと宮崎さんのたたかいは、その「努力」の一つとして歴史に寄与するものだと思います。
(弁護団は東中光雄、斎藤真行、岩嶋修治、小林徹也、河村学)

井阪運輸株式会社の運転手の闘い

2004-01-01
井阪運輸株式会社の運転手の闘い

弁護士 上 山  勤

(2004年1月1日関西合同法律事務所ニュースより)

1、(突然の合理化計画の発表)
会社は西宮に本社があり、各種運送業を行っている。この事件は会社の阪南営業所で起こった。ここでは主に、不二製油(食用の油を扱う会社)の油をタンクローリー車で運ぶのが中心の業務であった。従業員は現業が二十一名でこのうち14名が運輸一般、4名が交通労連、一名が全港湾、あと二名は組合未加入という状態であった。折りしも、メインの取引相手の不二製油がバブル時代に行ったマネーゲームで137億円の損失を出し、取引先や下請けに対してそのお鉢を回そうとしてきた。これを利用して井阪運輸は94年、1人当たり8万円の減収になるような合理化案を打診してきた。組合側は勿論激しく反発をする。合理化を必要とする経営状況を裏付ける生の資料は組合側の要求にもかかわらず示されないままであった。
2、   96年3月、会社は労務屋「片岡利夫」を営業所長として招請、最後まで合理化案に反対していた運輸一般の組合員に対する激しい組合攻撃が始まった。手始めは露骨な配車差別であった。運輸一般の組合員には配車をしないのである。走って何ぼの運転手。仕事を干し上げられて職場待機が3ヶ月間続いた。当時のことを組合員は振り返る。『3ヶ月間月給が3万円ぐらい、娘は大学生、家中の貯金を食いつぶし妻はパートに出てがんばった。』『収入がないのに健康保険料・年金保険料・市民税などは支払えといってくる・・・1人でいるともう止めようかなと何度も思った』等々。収入は減ってもローンの支払はあるし借入金の返済は猶予してもらえない、みんなが不安に包まれた。

長く苦しい戦いが始まった。3ヵ月後には組合員にもすこしづつ仕事が与えられるが非組合員に比べて近場の仕事が多く、差別的な配車は続いた。まして組合役員に対してはその後も苛烈な差別が続く。そして、個別に組合脱退をそそのかしたり、当該の組合員労働者がいかに不真面目で素行が悪いかということをいろいろと書き連ね、悪くすれば職場がなくなってしまうかもしれないなどという趣旨の手紙を自宅の家族に送って動揺を促すなどあの手この手の干渉が続いたのである。解決まで七年を要するのだが、3人は職制のいじめで、3人は生活苦から職場・組合を去っていった。そして1人は病気によって死亡、3人が定年で退社していった。

 

3、組合は配車差別に対抗するため、差別を止めろと地労委に提訴。同時に最低賃金保障協定に基づいて、保証賃金の支払を求めて岸和田の裁判所に提訴。2年後には保証協定との差額を支払えと岸和田支部の判決が出た。

会社は協定がある以上は勝てないと考えこの地裁判決を確定させたが同時に労組法に基づいて期限の定めのない状態であったこの協定の正式な破棄を通告してきた。しかし、根拠を示さない合理化案とこれに抵抗する組合を狙い撃ちにした配車差別、このような事態が先行していた上での協定破棄であるから、会社の意図はあくまで組合に対する敵愾心にこそあったのである。組合側は、こんな協定破棄は無効だとして再び、訴訟を堺の裁判所に起こした。

合理化が嵐のように進められる風潮の中で、協約(会社と組合との書面による約束)が一方的に破棄されたり、変更されたりする事態は巷に横行している。だから弁護団も勝てる確信はなかった。しかし、差別的な配車が違法であることは明確だから協約の判断で負けても違法行為の損害賠償は認められるだろう。結果はおなじだ、そんな気持ちでがんばった。ガンで闘病生活をしておられた(故)本多淳亮先生には鑑定意見書を書いていただいたりした。

2001年5月、堺支部は組合側全面勝利の判決を言い渡す。協約の破棄については『通告は、不当労働行為による分会の弱体化を促進するために、その手段としてなされたと認めるのが相当である。従って廃車差別と不可分なものとしてなされた、被告による一方的な本件協定の破棄も不当労働行為にあたるので無効というべきである。』と判断された。その後も地労委・中労委の勝利が続いたが、会社は不服申立をして粘り続けた。組合は職場だけではなく、会社役員宅への抗議行動も繰り広げたが、これに対し役員の妻たちを動員した迷惑行為を理由とした損害賠償訴訟の逆提訴なども行われた。相変わらず差別は続き、慣例であった出前弁当の注文を組合員には取り次がないなどという子供じみたいじめも行われた。東京から朝帰りをして連続で構内作業を命じられた運転手は弁当がなければその日一日食事にありつけないという事態になってしまう。
4、 差別攻撃から7年。最高裁でも敗れた会社はついに、2003年4月17日に裁判外で和解をし、組合は戦いに勝利する。
所属は運輸一般から全日本建設交通一般労働組合に変わっていた。
そして14人の仲間は4人になっていた。この数字が攻撃の厳しかったことを示していると思う。
勝利した後での勝利報告集会が未だに争議を戦っているたくさんの地元の労働者
を励ましたことは言うまでもない。4人の組合員は口々に言う。
家族が励ましてくれた。負けてたまるかという気持ちで頑張った。何度も何度も止めようかなと思った。
・・・でも、それらをひっくるめて支えあって勝ち取った勝利だった。

派遣・偽装請負に関する取り組み

2003-11-27

派遣・偽装請負に関する取り組み 弁護士 河村 学

1 大阪では、団員がその中核を担う民主法律協会の派遣労働研究会において、派遣・偽装請負等を中心とする非正規雇用労働者の権利擁護のための活動を継続的に行ってきた。本稿では、その活動を紹介するとともに、運動のあり方について若干の意見を述べる。

2 大阪派遣労働研究会
 派遣労働研究会は、一九八五年の派遣法制定の二年前に法制定に反対する運動を行う組織として発足した。その後、派遣を含む非正規労働者の権利・生活を守る活動を継続的に続け、現在は、弁護士、学者、労働組合幹部、派遣労働者のほか、労働基準監督官やWWNの活動家など多様な分野の方が会員として活動に参加している。定例会は月一回行われているが、常時一〇名前後の参加で研究会がもたれている。

3 研究会の日常活動
 派遣労働研究会の活動は、月一回の定例会を軸に行われている。定例会では、派遣・偽装請負にかかる法的問題の検討や、派遣労働者からの相談に対する取り組み、研究会の具体的活動方針について話し合っている。また、メーリングリストでは、情報・意見の交流を行っている。
 恒常的な活動としては、月一回の定例会のほか、月一回の電話相談会、メールでの相談に対する回答を行なっている。メール相談については、龍谷大学の脇田教授が開設しているホームページに寄せられたメール相談を研究会員(但しほとんどが弁護士)が分担して回答しているが、ときには月八〇件くらいの相談が寄せられることもあり対応が困難な事態にもなった。現在は、脇田教授のホームページ内に掲示板を立ち上げてもらった関係で、派遣労働者の相談・回答が掲示板を通じて行われる割合が多くなっている。
 その他、近時の取組みとしては、年一回の大阪労働局との懇談会を八月に行った。懇談会では、近時問題が大きくなっている中途解約の問題、事前面接や二重派遣、直用労働者の派遣への切替等の問題について取り上げた。
 今年の派遣法改定に対しては、法改定に関する意見書を研究会として国会に提出し、また、共産党の推薦で衆議院での参考人としても研究会の会員が出席し意見を述べた。さらに改定法成立後は、付帯決議に基づき定めるべき指針についての意見をまとめ全労連に提出するなどの活動を行った。
 今年、全労連が派遣プロジェクトチームを作ったので、その場にも参加させてもらっている。

4 研究会の事件活動
 以上のような活動の中で、事件として取り上げる必要が生じた場合には、弁護団を配置して、事件活動を行っている。現在、研究会が取り上げている事件のうち主なものは次のとおりである。

(1)ヨドバシカメラ・パソナ事件。大手家電量販店のヨドバシカメラが、新規店舗の開業に際し、大手派遣会社パソナを通じて、一五七名の労働者の供給を受けたが、就業二日前になって、ヨドバシカメラによりその全員の就労を拒否した事例。両社間では業務委託契約を締結していたとされる(但し契約書は存しない)が、実際は労働者供給であった(派遣という形式をとっていないのは、おそらくは派遣法の一年ルールを潜脱する意図があったため)。労働者の一人が原告となり賃金相当損害金の損害賠償を求めて提訴。裁判において、ヨドバシカメラは、原告の主張自体が失当であると繰り返し、ヨドバシカメラ社長の証人尋問について裁判所が証拠決定したことについても、それでも出頭しないとその場で明言するなど、供給先の間接雇用労働者に対する無責任な意識を露呈する事件である。

(2)日建設計事件。日建設計が直用し働かせていた労働者について、約一〇年間就労後に派遣会社からの派遣という形式をとるようになり、その後も約一〇年間同様に就労を継続させていたが、今年になって何の理由もなく解雇(雇い止め)を行ったという事例。日建設計に対する地位確認・賃金支払を求め提訴。職安法四四条違反で労基局への是正申告も併せて行った。

(3)藤沢薬品・スタッフサービス事件。スタッフサービスから藤沢薬品に派遣された労働者が、就労直後に、薬品により労災にあった事例。藤沢薬品とはすでに相当な額で示談が成立。スタッフサービスは、労働者が労災の申出をした際、「派遣先とたたかうことになる」という理由でその申請に協力せず、かえって退職させて失業保険を受給させた。この点についてスタッフサービスはろくに調査もせず、就業前の安全教育など現実にはできないなどと高言したため、労基局への是正申告を行う。

(4)富士通(子会社)事件。三年間という約束で派遣契約をし派遣就労したが、派遣先が八か月で解雇した事例。当初の契約書をめぐるトラブルで労働者が会社を辞めるといった際は、契約期間は三年であるといって足止めしたにもかかわらず、必要がなくなると契約期間の残期間について何の手当もしないまま解雇した悪質な事例。また、派遣先でのセクハラ行為もあった。賃金相当損害金の支払いを求め提訴。

(5)毎日放送事件。一〇数年にわたり一〇〇%子会社社員として毎日放送の業務に従事していた事例。毎日放送は労働者の採用にも深く関わっていた。毎日放送に対する地位確認・賃金支払を求め提訴。

(6)川重原動機事件。昔の口入れ屋といえるような実体のない請負人に大阪で雇われ、川重原動機が受注している北海道の現場で就労させていた事例。契約期間が一年だったにもかかわらず四か月で解雇したため、残期間の賃金請求を請求。現在、川重原動機と示談交渉中。

(7)下水道事業団・マンパワー事件。派遣就労していた労働者に対して、一年の更新の意向を示したにもかかわらず、結局更新が拒絶された事例。当該労働者が新聞等に事実を公表したこともあって、将来の一年間分の賃金相当額の解決金支払い及び謝罪により示談成立。

(8)他に、事前面接により採用拒否された事例についての損害賠償請求などがある。また、派遣労働研究会でも取り上げ、会員が事件に携わっているものとして、偽装請負等について供給先の使用者責任を追及するJR西日本・大誠電機事件、関西航業事件、朝日放送事件等がある。

5 研究会の今後の取組み
(1) 研究会では、現在、中途解約問題に関するプロジェクトを行おうと考えている。中途解約問題とは、派遣先が派遣労働者がいらなくなったときに、派遣労働契約を中途解約し、派遣元事業主はそれを理由に契約期間が残っているにもかかわらず、派遣労働者をお払い箱にするというものである。プロジェクトの理由は、近時この問題での相談が多く寄せられること、中には、契約書の書換を強制したりする悪質な事例もあること、残期間の賃金額は一から三か月分程度が多く労働者の多くが泣き寝入りしていること、大阪労働局民間需給調整室では中途解約により派遣元が労働者を解雇した場合には休業手当支払の指導はできないと明言していることなど事情があるためである。少なくとも契約期間の残期間については、就労の機会を確保するか、期間全額の賃金を支払うかのいずれかが必要であるとの意識を派遣先・派遣元・労働者すべての理解にする必要がある。
 そこで、研究会では、中途解約問題に関する法的な検討を行うとともに、労働者が簡単に利用できる内容証明・是正申告書・訴状のひな形及び解説をホームページにアップすること、悪質な事案に対しては積極的に訴訟を提起していくこととしている。

(2) また、派遣労働者の実態調査についても、ホームページでアップし、当初は簡単な調査から行う予定でいる。それは、派遣元事業者側からの調査、正規の労働組合側からの調査はある程度行われているが、派遣労働者の立場にたって問題をみる視点での調査が圧倒的に不足しているからである。

6 非正規雇用労働者の権利擁護とその組織化について
 非正規雇用労働者の問題については、その法制上の問題を指摘したり、その組織化が重要であることを確認したりすることには熱心だが、非正規雇用労働者(特に派遣・偽装請負等の間接雇用労働者)の個々の権利・生活のためのたたかいについてはほとんど目に見える活動が行われていないのが実態である。
 その理由はいろいろあると思われるが、他のどのような問題とも同様で、個々の具体的な権利擁護の闘いを積み重ねなければ展望は開けないのであるから、あれこれ大上段に方針やあるべき姿を論ずるのではなく、個々の派遣労働者に接しその悩みを理解する活動を今多くの労働弁護士が行うことが求められていると思う。
 また、非正規雇用労働者の組織化についても、対象となる非正規雇用労働者が、直接雇用か間接雇用か、間接雇用といっても派遣か偽装請負か、パートや派遣といっても常用的かそうでないか等々さまざまな雇用形態を含んでいるのであって、それを例えば一律に一般労組に組織するのだとかいう方針が誤りなのは明らかである。この点も実情に応じた経験とその情報交換の中で新しい組織形態を作っていかなければならないのである(アメリカのような同じビルに勤務するという共通項で組織する組合やサイバーユニオンの構想なども一つの形態である。また、派遣については雇用形態を共通項にして人材派遣協会に対置するような横断的組織を作るという形態もあり得ると思う)。
 今必要なのは、むしろ個々の非正規労働者の権利・生活のたたかいやその組織化について、さまざまな実践を仕掛け、情報を交流するセンターであると思う。今後、各地で派遣労働研究会のような組織が作られ、全国的な経験交流の場ができるように努力していきたいと思う。

武富士残業代不払事件

2003-08-26

武富士残業代不払事件 弁護士 河村 学

一 はじめに
  武富士事件の紹介は、既にいろいろなところで行っている(労働法律旬報1551号25頁等)。この事件の社会的影響は非常に大きく、企業のサービス残業摘発に大きく拍車がかかったし、また、使用者・労働者双方に対して、残業代の未払が法律上許されない犯罪であるとの認識を拡げた。武富士内部についても、2003年7月28日、約5000人の従業員(現・元を含む)に対し、約35億円の残業代未払分が支払われた。
  本稿では、事案の簡単な説明とともに、若干の感想を述べたいと思う。

二 武富士事件の事案概要
 1 残業代不払の実態
  武富士では、男子従業員の場合、常態として平日午前8時から午後9時までは働かせており、休日出勤等も併せてその時間外労働は月100時間を超えるような状態であった。にもかかわらず、武富士は、25時間を超える残業時間を出勤表に記載することを許さず、業績が悪いときには、本社からの指示で、「男子は15時間です。女子はなしです」などと通達し、その時間の範囲でしか出勤表への残業代の記入を認めなかったのである。
  その後、原告らは、武富士を退職するとともに、労働組合に加入し、過去の残業代の請求を行ったが、武富士は就業規則に規定されている退職金の支払さえ拒むという態度であった。

 2 提訴及び告発
  その後、関西合同法律事務所の松本、杉島、河村が弁護団を組むこととなった。そして、2001年4月26日、残業代等請求を大阪地裁に提訴する一方、同年7月10日、労基法違反を理由に、天満労働基準監督署に株式会社武富士を告発した(是正申告も同時になしたのであるが、労基署の要請でどちらか一方にしてくれと頼まれ、是正申告は取りやめた)。
  その後、訴訟でも、労基署でも、就業時間の特定が問題となったが、この点がまさに難関であった。武富士には当然にタイムカードのようなものはなく、しかも残業時間等の記載は、当該従業員が武富士の命令に基づいて自分で記入するという建前になっていたからである。ただ、武富士は、顧客と従業員を管理するために、顧客に対する電話による請求記録を残しており、そこには電話をした従業員名も記録されるようになっていた。従業員は始業から終業までほとんど電話による請求行為をしていたため、この記録こそが就業時間特定の手がかりであった。
  そこで、訴訟においては、原告がこの電話記録の提出を再三求め、武富士側は、その記録提出には、莫大な費用と時間(単純に推計しても数ヶ月かかると言っていた)がかかるとしてその提出を拒むという状況で行き詰まりを見せていた。
  ただ、弁護団は、その間、訴訟外では労基局と継続的に連絡を取り合い、捜査の進展による事態の打開を図っていた。労基局の対応はかなり慎重で、他の労基局との連携の問題や武富士の従業員が債務保証等で脅されていて協力を得られないなどの理由で、幾度か捜査が頓挫する危惧さえ生じたこともあった。弁護団は、労働局への申し入れを行い、また、労働局から要請される必要な協力を行うなどして捜査の進展を働きかけた。

 3 武富士本社等への捜索・差押及び訴訟上の和解
  2003年1月9日、大阪府労働局は、労働基準法32条及び37条違反の被疑事実で、武富士本社、同大阪支社を含む7カ所の捜索・差押を行った。労働局が、大企業に対して、強制捜査を行うことは極めて異例であるが、これは、労働時間管理の適正に対する労働局の強い姿勢の表れであり、また、本件事案として、全体の被害がかなり大きいものであること、武富士が度重なる是正指導にも応じようとしなかったこと、労働時間を特定できる内部資料が存在すること等の要因があったことによると思われる。
  この強制捜査の後、民事訴訟の方は急展開し、同年2月20日、和解が成立した。和解の中心的内容は、①請求していた残業代等のほぼ満額の支払い、②残業代未払についての謝罪、③適正な労働時間管理・賃金支払の宣言その他(公表できない内容もある)である。弁護団では、この和解の点でも相当議論をしたが、当事者の意思を尊重し、全面勝訴的和解を宣伝することの効果と、当該事案における立証の状況等から和解に踏み切った。

三 本事件に携わっての感想
 1 本事件において、最も重要だと思われるのは、残業代不払は犯罪であることを社会的に認知させた点である。
  従来、労働基準監督署は労働者からの是正申告に対して、申告後の改善のみを指導するという方法が行われていた。しかし、これでは、企業にとってはサービス残業を行わせた方が結果的に有利となってしまう。
  本事件は、単に不払賃金の支払をさせることで法律上当然の義務を果たさせたというにとどまらず、これを犯罪として認知させ、社会的ペナルティを与えたという点に大きな意義を見いだせる事件といえる。

 2 次に、労働者の権利を擁護・実現する上で、行政機関と連携することが必要であることを改めて感じた。
  労働行政機関に対する申告・告発等は、よく判らないとか、効果について疑問があるとか、役に立たないとかの理由で、積極的に活用される例が少ないように思われる。
  しかしながら、労働行政機関は一面では柔軟に、一面では権力的に、問題を処理する権限を与えられており、労働者の権利保護に大きな力を発揮する可能性があると思われる。
  本件においても、行政機関への告発とこれに基づく強制捜査の実現が、原告に支払われなかった賃金を支払わせ、それと同時に、約5000人の武富士従業員の残業手当未払分約35億円を支払わせる契機ともなったのである。
  行政担当者のやる気等にも大きく左右されるが、労働行政機関に対する申告・告発を、労働者任せにすることなく、弁護士が積極的に活用し、行政担当者を動かす努力を図ることが必要ではないかと思われる(別件ではあるが、クラボウ思想差別事件では、2003年6月10日、思想差別を認定した第一審判決も添付して、労基法3条違反で大阪労働局に告訴を行った)。
  なお、労働基準法違反や、労働安全衛生法違反について、労基署へ申告・告発するばかりでなく、派遣労働者や偽装請負・偽装業務委託的な労働関係に置かれている労働者について、派遣法違反・職業安定法違反を理由に、職業安定所に申告・告発することも有効であると思われる。殊に、後者については、労働者の法律上の権利保護が薄弱であるため、行政機関を活用した解決が最も効果的な場合が多い。

 3 さらに、本事件を通じては、行政機関の対応に比し、裁判所の対応が極めて消極的であった点が印象深い。
  本事件では、武富士がサービス残業をさせている事実については一部の証拠から明らかであったが、裁判所は、日々の就労時間の個別の立証を原告に求め続けた。
  しかし、タイムカード等での労働時間管理が適正に行われていない企業において、労働者側がこのような立証を完全に行うことはまず不可能といってよい。そして、このように労働者に過大な立証責任を課すことは、結局のところ、適正な時間管理をせず犯罪行為の隠蔽をうまくやっている企業の方が、仮にその犯罪が発覚した場合にも、民事上は得をし、労働者は労働基準法上の権利・利益を享受できないという結果となってしまうのである。
  就労時間の適正管理義務、その立証責任に関する立法的な手当が必要なところと思うが、そのような立法がない場合でも、適正な時間管理を行っていなかったことのリスクは企業が負担すべきなのであるから、少なくとも実際の労働時間についての蓋然的な立証を労働者側で行うことができた場合には、日々の就労時間についてより短かったことを使用者が立証する責任を負うと解すべきである。
  なお、武富士事件では、実労働時間を立証するための資料として、前記の電話記録の外に、店内に設置されたビデオテープや店舗の開閉に関する警備記録等が考えられたのであるが、対応が遅れたこともあって証拠収集ができなかった点が反省点として挙げられる。迅速な証拠収集は、労働事件に限らず、最も重要な活動であることを改めて感じている。

 4 最後に、労働者の権利を実質あるものにするためには、企業組織の内部に、企業の法違反を監視・告発する労働組合の存在が不可欠ということを強く感じた。
  武富士は長年にわたって残業代の不払を継続してきており(その不払額の合計は莫大な額になると思われる)、原告の勇気ある問題提起までその改善はなされなかった。それは、企業の法違反を監視・告発を行う役割を担う者がいなかったからである。
  外部的には、労働基準監督官がその役割を担う者と位置付けられているが、貧弱な労働行政のもと、この役割はほとんど果たされていない。
  とすれば、この役割を担うのは、現在のところ労働組合しかなく、これを育成・強化することが、労働者の法律上認められた最低限度の権利を実現するためにも必要であると思われた。
(弁護団は松本七哉、杉本幸生、河村 学)

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